聖水紀ーウオーター・ナイツー第13回(1976年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
第8章
タンツをつれた反聖水組織「レインツリー」ロイドの一行は、レインツリー所属のの飛行船で南太平洋にある小島にたどりついていた。この飛行船は宇宙連邦軍の所有物であったが、巧妙に隠されていた。タンツがその場所へ案内したのだ。
この聖水紀、こういった小島には人影はない。
「ここが要塞か」
「そうは見えない。風光明媚な島だ」
「タンツ、本当にここなのか」
「きみたちは、いかにも要塞然とした要塞を考えていたのか。よしここだ、ここで私を降ろしてくれ」タンツは命令口調で言う。
「我々も降りるぞ」ロイドが言う。
「いかん、この島の砂は感知機とつながっている。連邦軍以外の人間を受け付けない、攻撃されるのがおちだ」
「本当か」
「本当かどうか、試してみるかね。君にそれほどの勇気があるとはおもえんが」
「ロイド、どうする」ツランが不安気に言った。
「タンツ、うそなら、ゆるさんぞ」
「君らに許しを受ける必要もあるまい」
「タンツ、のぼせるなよ。君が人類最大の裏切り者であることを忘れるなよ」
「私しか要塞に入れるパスワードを知らんのだぞ」
「無理にきさまから聞く必要はない。我々レインツリーが呪術者集団であることを忘れたか」
「無駄だ。この島の防御システムを無効にするにはパスワードプラス連邦軍の生体コードが必要なのだ」
ロイドは憎々しげにタンツを睨む。が妥協した。
「よし、タンツ、降下しろ。しかし、変なまねはするなよ。君は我々レインツリーにたよるしか、この地球で生きる方法はないぞ」
「そうかどうかはわかるまい」
「貴様、この裏切り者が」ツランがタンツに殴りかかろうとした。ロイドがそれを制する。
「まて、ツラン、いずれにしてもタンツは我々の手の内にいる。どう料理するかは我々が決める」
タンツは降下し、島にある洞窟のひとつにはいっていった。
密林で巧妙に隠されたドアをみつけだし、パスワードをつぶやく。
タンツは宇宙要塞ウェガに入った。回廊を通過し、エレベーターホールの前にたっていた。人影はまったくない。
地下エレベーターで地下21階まで降下する。
再び、回廊が奥まで続いていた。ひとつのドアの前でタンツは立ち止まる。涙ぐんでいる。
やがて、意を決して、タンツはドアをくぐる。暗い空間だ。
『おかえり、タンツ』
突如、声が響いてきた。
『帰ってきたよ、マザー』
光りがタンツの周りを巡り、やがて総てを浮かびあがらせた。タンツはマザーと呼ばれる巨大な人工頭脳の前にたっていた。
「ママ、ようやくかえってこれました」
そういったタンツはマザーの姿が少しばかり変わっているのにきずく。
「マザー、どうしたのですか」
『それは私から、答えよう』別の声がした。それはどうやら、マザーの体に絡み付いているつたから発せられたようだ。
「きさまは」
『レインツリーだ』
「何だって」
タンツは身構えた。レインツリーが何故マザーの元に。何かの罠か。
『まあ、聞きなさい。我が子タンツ。彼は私の命の恩人なのよ。私は宇宙連邦軍のハノ将軍によって活動が停止された。それを助けてくれたのがレインツリーなのよ』
タンツは、この電子要塞とリンクされた電子の子であった。タンツはこの要塞の人工受精室で作り出された人類最初の人間だった。
飛行船の中で、ロイドがツランに尋ねる。
「ツラン、どうだ、内視できるか」
「ロイド、大変だ。あやつは我々を裏切ろうとしている」
「何だって」
「奴は要塞の防御システムを一人で作動させた」
「今までこの要塞にはプロテクトがかかっていなかったのか」
その時、タンツの声がどこからか、ロイドの飛行船まで響いてきた。
「レインツリーの諸君、我々の命令にしたがってもらおうか」
「我々だと」
『我々とは、私タンツとマザーコンピューターだ』
『そうよ、レインツリーの皆さん、私がこれから地球を支配します』
「我々レインツリーが安々、君たちの事を聞くと思うのか」
『そういうと思った、でもこの声を聞きなさい』
『私はレインツリーだ。私はこのマザーと合体し、地球の利益を守る事にした』
機械的な男の声だった。
「つくりごとは止めろ、タンツ」
「そうだ、我々はレインツリーの肉声など聞いたことはない」
ツランが続けた。
『私の根が、ある時、マザーの動源ケーブルを見付けだしたのだ。マザーはそれまで、活動できないでいた』
『そう、私は宇宙連邦軍の将軍によって、作動中止を受けていた』今度はマザーの声だった。
『だから、彼女は生き残ることができたのだ』レインツリーとなのる声が続けた。
「証拠を見せて欲しい」ロイドが疑わしげに言う。
『それまで、私を信用できないか』レインツリーの声は怒りを帯びている。
島の砂浜が音を立てて動いた。砂が持ち上がったのだ。地中から何本もの巨大な根が出現していた。上空の飛行船まで一本の根が届く。見る間にレインツリーの組織のメンバーをつかみあげていた。その男の体はにぎり潰された。
その瞬間、すべての根毛から赤い樹液が吹き上がった。この島のあたりは赤く染まる。
『まだ、わからぬか、私がレインツリーだ』男の声は怒りに震えている。
呆然とする飛行船の男たちだった。やがて、ツランはロイドに言う。
「どうする。ロイド、どうやら本当にレインツリーらしい」
「しかたあるまい、レインツリーが言っているのだ、我々はマザーにしたがおう」
「あの、タンツに従うのか」くやしそうにツランは言う。
「そうだ。私も気分は君と同じだ、ツラン」
『まだ、不満があるのか、諸君』
レインツリーが飛行船の船尾をつかみ、揺さぶる。
『君達の代わりは、この地球にいくらでもいるのだ』
「レインツリーはどうしたのだ」誰もが叫んでいた。
マザーに篭絡されたか、ロイドはつぶやいていた。
レインツリーの赤い樹液を皆がかぶり、壮絶な顔つきだった。
「レインツリーに従おう。我々の目的は地球を取り戻すことだ」
この時、ロイドの頭に去来するものがあった。
「我々は君に従う。が、タンツ、ひとつ願いがある」
「なんだ」タンツの声が返ってきた。
「私が聖水神殿に行くことを許してくれ」
「何を言ってるんですか、こんな時に」仲間の一人が叫ぶ。
『さてはロイド、君はベラを連れもどすつもりだな』
「むちゃだ」仲間が非難するようにロイドに言う。
『そうだな。君はベラを愛しているはずだ。私が彼女を思う以上に』
しばらくの沈黙の後、タンツが言った。
『彼女は聖水の一部らしいの』マザーコンピュターが言う。
「それが『みしるし』という意味か」ロイドがつぶやく。
『そうだ。彼女を分析すれば、さらに聖水の弱点もわかるかもしれん』タンツの声だった。
「私をやっかいばらいできるだろう」
『それは君の自由意志だからな』
「死ににいくようなものですよ」
「おやめください。我々にはまだ、指導者が必要です」
「一時の心の迷いです」仲間が引き留めようとした。
「いるじゃあないか、タンツというりっぱ指導者が」
『厭味かね、ロイド』タンツがいった。
聖水紀ーウオーター・ナイツー第13回
(1976年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/