クリス・リックマンという名の箱船第2回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
隊商が黄金都市ラグーン市を訪れようとしていた。長い砂漠の道のりで、さしものサイボーグラクダ疲弊しているようだった。その上に乗っている人々はそれ以上のようだ。
が。それに応えたのはラグーン市から現れたヴィーグルの目玉の部分から発射された機関銃のスタッカート音だった。 。
機銃弾は人々の体を貫き、さらにはサイボーグ=ラクダの体をパラパラに吹き飛ばした。
静寂が訪れた。何もおこらなかったのごとく、砂が動いていた。
■この一部始終を、私は上空500mから消音ヘリコプターでモニターカメラを通じ、観察して
いた。
私はラグーン市から少し離れた小高い丘の陰へリコプターを着陸させた。
ヘリコプターは自動操縦にセットし、「全都市管理センター」の方へ帰って行く。私はそれを見送ってゆっくりとラグーン市の方ヘー歩を印した。
`私といえば外見は70才の老人で、白いチュニック風の衣装とサンダル。それに
心強い杖と、背に掛けたわずかな小物袋だけが荷物だった。
砂嵐が再び強くなって来た。私の向かうべき黄金都市ラグーン市が目の前に迫っている。
ここが私の求めている都市だろうか。
そうであってほしいと私は思い続け、私はいくつの都市を、その町の通りを。さらに年月をすごしてきただろうか。
恐らく私の体には血のにおいが染み込んでいるに違いない。
その血はまた私自身の体の血でもあった。
一体いくつの都市を私は破滅させてきただろう。
私は本当に私の理想とする都市へ辿り着く事ができるのだろうか。
私は年老い、私の創り上げたすばらしい子供達、子孫を捜し求めて、地球を放浪してい
る老人にすぎない。
しかし、私自身の正義は、全うされなけれぱならない。それが私の生存価値だからだ。
ああ、私の愛する星、地球よ。
私は思わず嘆息する。自己愛か! 自問する。
私は、この星地球から遠く旅立ち、再び、それこそやっととの思いで地球の土を踏んだ何
世紀か前の宇宙飛行士達の事を考えていた。
彼らアストノーツが再び地球の土を踏んだ時の気持はどうだったのだろうか。
私はこの世界で一人ぽっちだ。
しかし何があろうと私の道は守り通さなければならない。
私の思いをかき消すように、ラグーン可からお出迎えが現われた。
ラグーン市の金壁の一部が開き、先刻のねずみ型ビーグルがこちらへ向かってくる。
ビーグルは私の前で急停止した。外部スピーカーがしゃべりだした。
「じいさん。残念だが、この直に茨しい人間 を迎える事はでさないよ。特にあんたのよう
な老人はね。どこの市も同じだろうが、食い物がないんだよ。すまないな。帰ってくれ」
私は黙ってビーグルの前面の編光フロント=グラスの方を眺めていた。
「じいさん。耳がないのか。今、来た道を戻れ、せっかくその年まで生きてきたんだ。死に急ぐ事はないぜ」
スピーカーから少しばかり怒った声がした。
唐突に私の足元に機銃が射ち込まれた。砂ぼこりがあがる。
「いいか、これで警告は最後だぜ。次は体が吹き飛ぶぜ」
私は服の汚れを払い、ゆっくりと小物袋から「シルバー=スター」をとりだし、胸に付けた。
シルバースターはにぶく銀色に輝いている。「全都市管理センター」を示す徽章だ。
組手側の態度の変化が目にみえるようだった。ビーグルは急に押しだまった。ラグーン市庁本部
と連絡をとっているらしい。
あわてた屏がスピーカーからやがて流れてきた。゛
クリス/リックマンという名の箱船第2回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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