イメージイラストは、鈴木純子先生作品です。
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クリス・リックマンという名の箱船第14回(最終回)
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■誰かが私の司令室に入ってきた。
イーダだった。彼女の体全身が光り輝いている。
私は、私に残された最後の武器、古代のガン、マグナム44を取り出し、発射した。
マグナムから発射された弾丸は、彼女の体をつらぬいたが、彼女を傷つける事はできなかった。
彼女は美しかった。そして悲しげだった。
「クリス・リックマン。まだ、あなたは理解できないの」
彼女は再び私の本名を呼んだ。
「君は、なぜ、俺の本名を知っているのだ」
「私をはあなたの事を何でも知っているわ」
「地球への侵略者とくんだのか、いや都市連合ともか」
私はまた怒りに目がくらみそうになった。
「クリス、あなたは間違った考えを・している。あれは侵略ではなかったのよ」
「あれが、地球への侵略ではなくて何だというのだ」
「星間法廷の裁定なの。地球人類はまだ宇宙にのりだすのには早すぎたのよ。大人になり
きれない子供が宇宙のルールも何も知らずに行妨したら、どうなると思う。
宇宙のバランスがくずれるわ。彼らは宇宙の平和を重んじたのよ。
その判定により地球の人類への攻撃が決定されたのよ。
しかし人類が滅亡したわけで討なかった。あなたがいたわ」
「そうだ。俺だけが不思議に生き残ってしまった。なぜだ」
「あなたを箱船にしてあげようと彼らが考えたからよ」
「箱船だと」
「そう、キリスト今日の聖書に出てくるあのノアの箱船よ。あなたは一人だけだった。して地球の生物因子、全情報を体にいれて、地球におりたつはずだった。イブには私がなるはずだった。けれど、私があなたの元に行く前に、あなたは走り去り、自らの手で自分のクローン人間を作り、自分は。この大空洞内でコールド・スリープにはいってしまったわ。彼ら創造者の思惑がはずれたの」
そうだ。確かに、私は数百年前、イーダに会ったことがある。私が宇宙パイロットとして研究者として
であった遠い違い昔の話だ。そう誰かにもう少しで恋に陥りそうだった。
しかし侵略が始まって、それから……
「迷惑だ。侵略者の思い通りになる地球人類か」
「いえ、違うわ。今地球にいるあなたのクローン人間の子孫ではなく、いい精神、いい形
態を持つ新しい人類を生みだすという事よ」
私のクローン人間、確かに彼らは失敗作なのだ、
■地球は燃えあがっていた。
侵略者達の円盤機で世界中の町という町、都市という都市は
破壊されつくされていた。まるで大なたで根こそぎ打ち払われたように。
その「大侵略」の時、一人残った私、最後の地球人クリス・リックマンはこの星を守るため、地球の再建をめざし、自らのクローン人間を作りあげた。
そのクローン人間が何世紀か後、この地球上 に満ちる事を願った。
それから私自身は、この空洞の中で長い長い冷凍睡眠にはいった。
再び、私が目覚め、地上にあがった時、大地は確かに人間であふれていた。すべて私の息子、娘達だった。
しかし、悲しいかな、彼らはあいも変らず 闘争にあけくれていた。人間の精神は進化し
ていなかったのだ。
どこかの一村落、一都市でも、私の理想とした人間が生まれていないかと私は地球をさ
まよった。
しかしいなかった。失敗作は、作者自身の手で抹殺しなけれはならない。それが私の役
目だった。私はクローン人間の彼らを食糧で支配しようとした。都市管理センターの存在を彼らに知らしめ、不用の都市を抹殺するため、視察官であり、シティ・ディザスター(町に災いをもたらす者)という役目を自らで果そうとした。 ’
「もう、あきらめるのよ、クリス、あなたのやり方をね」
イーダの顔は私のコピーではなく、大昔の彼女の顔に変貌した。
彼女の本名はそうだ。クララだっだ。彼女は、はっきりとした口調で言った。
「あなたの努力は確かに大きかった。でも結果は見ての通り」
「しかし……」
「いえ、あなたにもよくわかっているはずよ。あなたの理想とする人々の住む都市は決して
存在しないと」
イーダ、いやクララは決心したように言った。
「クリス・リックマン、今まで、あなたにはだまっていたのだけれど、ここは地球ではないの」
「じゃ、どこの星だというんだ。ばかな」
「どこの星でもないの。
大きな研究室があると考えて。
ここは想像を越えた巨大な実験空間なのよ」
声が響いてきた。あのメルダ市の指導者の声だった。
『クララの話につけ加えよう。君をあのままにしておき、地球に君のクローン人間をあの
まま繁殖させるのは危険だったのだよ。私達は総て、君たちをこの実験空間へとじこめておいたの
だ』
私は悲しくなった。そしてやがて笑い出した。
何んて事だ。今までの数十年の努力、シティ・ディザスターとしての努力が、実験室のフラスコの化学反応だったってわけか。
私は古い中国の昔話、シャカの手の中の孫悟空の事を想い出していた。
私は近くのコンソールにでも頭をぶちつけて死にたくなった。
『落ちつきたまえ。君はまだ死ぬ運命にはない』
指導者の声は静かに言った。私はある事に気がついた。 ‘
「それじゃ、今、地球はどうなっているのだ」
『見せてあげよう』
巨大なスクリーンが空洞の空に拡がった。
そのスクリーンのよう。なものは。昔の、裁定を受ける前の地球の姿だった。
私は思わず、声をあげてしまった。それは驚さと喜びの入り混ったものだった。
「今、この地球に住んでいる生物は」
『人間は。住んではいない』
「というと」
『そうだ。君がこれから行くべきなのだ。新しいアダムとしてね。。もちろんイブも連れて
いかねばならない』
私はクラグの方を見た。
『クリス・リックマン君、くりかえしておく。我々は全宇宙のバランスを重んじる。もし、又、君とクララの子孫が前の時代と同じようなあやまちをくりかえしたとしたら……』
私は指導者、いや侵略者の声を途中でさえぎって答えた。
「そんな事を考えないで下さい。私クリス・リックマンとクララ・リックマンの子孫なのですから」
私リックマンは再び、新しき人類の祖先になろうと心に決めていた。私は胸のシルバー=スターを
もぎとり、ほおりなげた。
それはスクリーンに吸いこまれ、侵略者によって破壊されてしまった月となった。
月の復活である。
私はグラフに近づき、だき寄せ、二人はいのまにか、地球という名のエデンの園に立
っていた。
私は70才の老人ではなく、20才の男となりクラーフは少女ではなく18才の娘となって゛いる。
彼ら、超生命体にとってこんな事は造作もない事だろう。
私達は、新しい運命を切り開くために、地球の大地を踏み出していた。
■エピローグ
『実験は一応、成功といえるだろう』超生命体1がいった。
「まだまだ、わからんぞ。ひき続き観察は必要だろう」超生命体3が続けて言った。他の超
生命体も同意を示す。
『失敗すれば、またやりなおせばいいのだ』 超生命体1は独りごちた。
彼らは、「創造の神」たちとして地球人が呼ぶ意識体であった
完20210908改訂
クリス/リックマンという名の箱船第14回(最終回)
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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