クリス/リックマンという名の箱船第1回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 HIROICHI YAMADA
http://www.yamada-kikaku.com/
■ プロローグ
そこは一つの空間だった。空間としか、呼びようがなかった。
無形の生命体、それも超生命体が集まり、コミュニケートていた。
「もう彼に事実を認識させたらどうだね」 生命体1が言った。
「彼はショックに耐えうるだけ成長したといえるだろうか」生命体2が考え深げに質問を
投げかけた。
皆、一様に不安を持っているようだ。
「全人格が崩壊するかもしれん」生命体3が発言する。
「確かに、彼のような下等生命体にとって、かなりのショックに違いない」
「それはそうだ。自分の信じている全世界が足もとからくずえるのだからな』
再び、先程の生命体1が強く言った。
「もう、そろそろ、事実を認識し、彼はI人立ちすべきだ」
「新しい生命体へ、アウフヘーベンすべき時だと君は確信するのだね」生命体2が尋ねた。
「そうだ」。生命体1は断固として言い放った。
「よろしい。彼の意識を全開させよう。手段のI?として別の保存個性体J6678を蘇
生させよう」生命体3が提案した。
‘
「それはいい考えだ。確か、彼はJ6678と特別な感情が発展しそうだったはずだね」
「そうだ。一人ぽっちは確かに心細いからね」 生命体2が言った。
観察者でもあった彼ら、超生命体達は、彼らの観察対象である一個の下等生物の意識世
界を再び全開させた。
■隊商が黄金都市を訪れようとしていた。長い砂漠の道のりで、さしものサイボーグ=一フ
クダも疲弊しているようだった。その上に乗っている人々はそれ以上のようだ。
目の前に吹き荒れる砂嵐を通して、かろうじて、彫刻が施された金色の城壁が見えてき
ている。目ざす都市一ラグーン市なのだ。
このあたりの砂漠地帯のオアシス。このバミューダ砂漠の富と財宝を集めている都市なの
だ。 黄金の壁の一部が外側へ開き、ねずみに似た形のヴィーグルが出現した。
隊商を迎えるためだろうか。砂漠を越え、ようやくこのラグーン市へ辿り着いた人々は
手を振った。
が。それに応えたのはヴィーグルの目玉の部分から発射された機関銃のスタッカート音だ
った。
機銃弾は隊商の人々の体を貫き、さらにはサイボーグ=ラクダの体をパラパラに吹き飛ばした。
静寂が訪れた。しはらくしてヴィーグルのハッチから一人の男が出てきた。
ヴィーグルの後部へそりを着けた、格納車の中へ、総ての残滓をヴィーグルのマニュピュレーターを使い、格納車にほおり込み、都市ラグーン市の中へ引きずり込んでいく。
何回もこの作業をくり返し、後に何も残らなかった。最後にはラグーン市の壁がヴィーグル
を呑み込み、何もおこらなかったのごとく、砂が動いていた。
クリス/リックマンという名の箱船第1回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所HIROICHI YAMADA
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