アイランド■第6回■■最終回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
ザタワーは、サンチェス島上空にあったキラー衛星の消失を確
認していた。
首相室に今度は、シモンズが呼びだされた。
「シモンズ君、君のあの大言壮語はどうしたのかね」
「首相、申しわけありません。潜水艦の方からも連絡がないのです」
「話によると、サンチェス島は、レインツリーの要員、コロラドの
領地と聞いているが」
「おっしゃる通りです。サンチェス島は、コロラドに、ポズナニ戦
役の、その論功行賞として、彼に与えられた戦士領地です」
「コロラドという男はどうしたのだ」
「それも不明なのです」
「シモンズ君、君の話はまったく要領を得ないね、ひきとりたまえ」
シモンズは、首相室のドアから出る時、クレアとはちあわせた。
クレアはあわれむ様にシモンズを陪る。
「シモンズ君、また我々に光があたってきたがね」
「クレア君、まあせいぜい失敗しない事だね。あの生物を甘くみる
と失敗するぞ」
シモンズは首相の前に立つと、挙手をした。
「全機動兵団、出発準備完了いたしました」
「シモンズ君、今度は、失敗はないだろうね」
「もちろんです、首相」
サンチェス島は、機動兵の飛行艇で被われていた。上空をゆきか
う飛行艇からは、機動兵が降下してゆく。
「機動兵魂を見せろ」
副官ハインドが皆を元気づけていた。
「相手は、女、子供だ」
上空から降下してくる機動兵の姿を腿ながら、コロラドは、また
過去を思い出す。
あの時、クワノンの生体ミサイルを自分の力で防ごうとした。自分
の力を過信していたのだ。その結果が、石くれの町なのだ。
コロラドは今度こそ、最善をつくそうと思った。この時にベスト
をつくさないとしたら、何のために生きてきたのかわからなくなる。
つまりは、私はこの時のために生まれてきたのだ。
そうコロラドは思った。
アリスとビィーは新世界への種子となるのだろう。
海は凪いでいた。
、雲の切れ間からの光が、まるで天国からの光の
様に、彼女らを照らし出していた。
聖家族の様だった。
これからの戦いの幕あけにふさわしい。
俺は敵の機動兵の前に立ちふさがろう。
コロラドは考える。
彼の心臓は高なっていた。
心臓のドクドクという音がコロラドの耳朶の奥で響いていた。
我々は滅ぶべき生物なのだろう。
コロラドはビィーを抱きしめ、ほおずりをした。ビィーはキスを
かえした。
コロラドはビィーの顔を少しも冷たくは感じなかった。
コロラドのほおをなま温いものがつたっている。
「我が子よ」
コロラドは思わず叫んでいた。
「ビィー。アリス。君達は、もう人類を殺すのはやめてくれ。我々
は、我々自身の手で滅びるべきだ。俺がその役目を果たす。幸
この島にまだ仕掛けはある」
「パパ、僕はきっと生き続ける。この地球を変えるためにね。ママ
と一緒だよ」
「そうだ。ビィー、お前が、地球に残された唯一の希望かもしれな
い」
コロラドは抱いていたビィーをアリスに返す。
そしてアリスに言った。
「いいか、アリス、よく聞いてくれ。ビィーは私の血と肉から生ま
れた子供だ。必ず守ってやってくれ。世界は君なちのために開かれ
ている。新しい世界がね」
「わかったわ、コロラド。あなたが・最後まで、私達を守ってくれる
のね」
「そう言う事だ。俺の持てるすべての力を使って、君達を守る」
「ビィー、覚えておいてくれ、そして君の子孫に伝えてほしい。君
たち、新地球人のために手助けをした旧い地球人がいた事をな」
「わかった、コロラド=パパ」
コロラドは防禦システムSDIIのファイナルバージョンのシス
テムをONにした。島のあらゆる防衛機構が動き始める。そして最
後には……
コロラドは、車で、サンチェス島の中央まで、二人をつれていく。
「さあ、ここだ」
アリスに穴を示した。その穴は地下道となり、地下へ向って行く。
コロラドが脱出用に作っておいて電磁気レイルウェイだ。
一人乗りで、数百km離れた大陸に結びついている。このカプセル列車とレ
イルウェイは一度しか使えないのだ。
「さようならコロラド」
「さようなら、パパ」
二人は、コロラドに言った。
ビィーをかきいだいたアリスは卵形の列車に乗り込む。
コロラドの姿は闇の中へ消えていく。
二人の体は高速で、新しい歴史へとつき進んでいった。
数分後、サンチェス島は大爆発をおこした。
コロラドの自爆操置か。あるいは、レインツリーの潜水艦が放った核ミサイルか。それとも、機動兵団の核攻撃か、いまだに不明である。
ただし、同時に、アリスとビィーは消滅したとファイリングされ
た。
機動兵団のほとんどが全滅されたともファイリングされた。
アリス=ママはギシギシとぎこちない動きをしている。
古い材料ばかりなのだ。
さてヽもうおわかりかもしれないー私ビィーはこの地球世界であなたがた生物の租となったのだ。
覚えておられるだろうか。
私ビィーはパパ、コロラドに、キスをした。
その時、私の意識の
内に、コロラドの意識をコピーし、取り込んだのだ。
だから、私ビィーは。コロラドでもある。
私コロラドは、自らの体の滅びる瞬間を感じ、アイランドが消滅す
る瞬間も見たのだ。
コロラドの体が滅んだ事は、少なくとも、サンチェス島の人々の
つぐないにはなったかもしれない。コロラドの体はサンチェス島と
心中したのだろう。
私ビィーがいかに、苦難の道を歩み、新人の租となったのか、そ
れは次の機会に語ろうと思う。
(完)
1975年作品 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
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