源義経黄金伝説■第29回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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西行は、義経に対して、東大寺の重源から預かったものを渡す時がきたと考えた。
「さあ、義経殿。やっと二人になれたところで、重源殿からの贈り物です」
西行は義経に竹包みを差し出している。
「これはどうもありがとうございます。さて、これは…」
「まあ、まあ、開けてくだされ。それからお話しいたします」
西行は、にこりと微笑んだようであった。
「おお、これは、建物の図面ではござりませぬか。これを私のために…」
義経は子供のように、喜んでいた。
「そのように喜んでくだされるならば、西行は、いささか恥ずかしく思います。
いやいや無論、私が図を起こしたものではない。ほれ、お主も知ってござろう。重源様の図面なのじゃ」
「おお、あの東大寺を再建されておられる重源様の…」
「よいか、私が直々重源様に頼んだのです」
「一体何故に、このような図面を」
「よいか、義経殿」
西行は真剣な顔付きとなり、義経の方へ膝からにじり寄った。
「これはあくまでも二人だけの話ですぞ」
義経は西行のただならぬ気配を感じ、顔色を変えている。
「奥州藤原氏を信じてはならぬ」
「何を仰せられます。あの藤原秀衡殿が…」
「まあ、義経殿。落ち着いて聞きなさい。秀衡殿は別じゃ。秀衡殿のお子様が問題なのじゃ」
「子たちが一体私に対して企みを持っておられるといわれるのか」
「そうじゃ、義経殿。己が身の上考えて見なされい。いずれの身かわからぬお主を育ててくれ、勉強されてくれたは秀衡殿。が、子たちはお主のこと、よくは思っていまい。考えてもみなさい。お主がいることで平泉が危険になっておりますぞ」
「私に、この平泉から逃れよとおっしゃるのか、西行殿。それはあまりではございませんか。私と秀衡様のこと、西行殿はよくご存じではないでしょうか」
義経は涙を流さんばかりである。
「よいか、義経殿。この地図の通り建物を建てなおされませ。そして密かに北上川の抜け穴を作られよ」
西行は、秀衡を動かし人即に手配をさせていた。
「抜け穴ですと、私は敵に後ろを見せる訳にはいきません」
「万が一のための予防策でございます。そして、この造作には、この男を当てられよ」
西行は後ろから、人を呼び入れた。人影が急に義経の前に現れている。
「お初にお目にかかります。東大寺闇法師、十蔵と申します。重源様から命を受けて、この平泉まで参りました。どうか、この建物の作事の支配方は、私にお任せくださいませ」
西行が一人ごちた。
「不思議な縁でござりました。平清盛殿、と私は北面の武士の同僚でございました。清盛殿は平家による日本の支配を確立し、この私は義経殿をお助けしたのです。治承・文治の源平の争いの中を、私は伊勢に草庵をかまえ、戦いとは無関係に生き残ってこれたのも、秀衡殿のお陰です。食扶持の費用は、秀衡殿にまかなっていただいた」
「西行様にとって、秀衡様はどのようなお方なのですか」
「そうでございますな。あれは私が二九才の折りでございましたか。京都で秀衡さまにお会いいたしました。そのおうた折り、佐藤家に、夢を与えて下さったのです」
「夢ですとと」
「そうです、京の戦いにもかかわらず、奥州には、この平泉のような仏教の平和郷、極楽郷があるという夢です。私が昔、この平泉を訪れた時の思い出は、、この戦乱の世に、いつも、目に焼き付いていて慰めとなるは、この平泉、束稲山の桜の姿、、なのです。あれが、この世にあっては、何か平和の証しのように私には見えたのです」
「西行様は、桜の花がそれのどまでにお好きなのか」
義経がたづねる。
「私は、月と花をよく謡います。日本の「しきしま道」の根本なのです。
が、この何年か身近に人の死をみすぎました。その京の地に比べ、この奥州平泉の地、なんと静かなことよ。100年の平和、その時期をお作りななれた奥州藤原氏の見事さよ」
義経が深くためいきをつく。
「西行様は、秀衡さまと御同族と聞いております」
「さようでございます」
「では、藤原秀郷様の子孫ですか」
「そうです」
「兄上が西行さまに在られてごきげんはいかでございましたか」
「銀の猫をいただき歓待させました」
「藤原秀郷の子孫、西行どのが、坂東新王、頼朝殿を、つまり新しい反乱王将門をとどめるわけですか」
「私にとってもこの地は安住の地、が、この私の存在が、この平泉の地を、地獄に変えるかもしれません」
(続く)201208010改訂
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