源義経黄金伝説■第11回(第10回欠番)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
あの女、手に入れたい。頼朝は思った。たとえ、義経の思いものであったとしても…。
文治二年(1186)四月八日。 鎌倉八幡宮の境内。
目の前には、京一番の舞い手義経が愛妾が舞をまっている。
義経の女の趣味は良い。誉めてやりたいぐらいだった。
頼朝は今でも心のうちは、京都人である。京都の女が好きなのであった。
この田舎臭い鎌倉近辺の女どもには、あきあきしている。
が、そのあたりには、異常に感の鋭い政子のために、今までにも、散々な目にあっている。いままた、頼朝はちらりと…、横目で政子の方を向く。
視線がばったりあう。
いかぬ。
政子はその頼朝の心を見抜いているかのようだった。
が、政子は、そんな頼朝の思いを知らぬげに、静の舞に見ほれている。
よかった。感づかれなかったかと、頼朝は安心した。
政子の思いは別のところにあったのである。
北条家・平政子は、この板東を統べる漢の妻になれたという自負もあり、肌色もよろしく、つやつやしている。新しい坂東独立国が、京都の貴族にもかなわぬ国が、我が夫、頼朝の手でなったのである。
義経のことは、気にならなかった。
静という、コマを手に入れているのだから。それに静の体には。
「ふふう」と、思わず政子は笑った。
大殿もそのことはご存じあるまい。せいぜい、京都から来た白拍子風情に、うつつを抜かされるがよい。
私ども、関東武士。平家の北条家が、この日本を支配する手筈ですからね。
あなた、大殿ではない。
誇りが、政子の体と心を、一回り大きく見せている。
頼朝はある種の恐れを、我が妻である政子に感じている。やがて,後に政子は、日本で始めて、女性として京都王朝と戦いの火蓋を切るのだが、その胆力は、かいま見えているのだ。
この政子と頼朝に共通している悩みと言えば、それは…愛娘大姫のことであった。
舞台の上の静の元気さ、華麗さを見るたびに、比較して打ちし抱かれたようになっている大姫の心の内を思い悩む二人であった。
その問題は二人の、この鎌倉幕府成立の内にたなびく暗雲である。
大姫はうつむきかげんに静の舞いを見ている。
舞台を見て嗚咽が会場のあちこちに広がっている。
見事である。
それが、武士達にとっての正直な感想であろう。
いわば敵に囲まれながら、どうどうと義経への恋歌を歌うとは、
歌姫・白拍子・女の戦士としては、
静は、十分に この戦場 敵地鎌倉で勝利をおさめようとしていた。
続く2016改訂
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