宇宙から還りし王(山稜王改題)■第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」
第1回
「リーファー君、お客さまらしい。丁寧な迎えを」
「それではまた私の山番というわけですね、山陵王」
リーファーは、翼をぱたぱたさせながら言った。
「それに、今度は君の知っている男だと思うよ」
山陵王のさし山す水晶球には、ある男の姿が映ってい
「ケイン!」リーファーは叫ぶ。
「そう、君の友、ケイン君だ。処理は君にまかせるよ」
「わかりました」
リーファーはやや青い顔をして、飛び立っていった。
「大丈夫ですか。あやつとケインは友達のはずです。
「いや彼にまかせておきたまえ。アゴルフォス」
山陵王はそう言い、アゴルフォスは3対の眼をきょろきょろさせて、うなづいた。
■
ケインはゼルシア国のエアポートヘ辿り着いていた。
ゼルシア、山陵王が往んでいる国にしては、小っぽけな国、ケインは思った。
ケインは飛行機から外へ出る。
熱帯独特のねばついた風が、ケインの体を包んでいた。
空港ビルまでのバスは昔風のタイプで、ここゼルシアでしか、
もう見られないだろう。
熱気にあてられた乗客の顔がものうげに見える。ここゼルシアは
21世紀から、とり残されたような国なのだ。
空港ビルの窓から見ると、ケインの行くべき「ラシュモア山」が蜃気
楼で揺いでいた。ケインは空港ロビーの大きな窓に手をあてて、
初めて見るゼルシアの風景をぼんやりと、しばらくながめていた。
「ゼルシアヘは、登山ですか」ケインの荷物を見て、飛行機でニュー
アークから隣の座席に座っていた男が言った。
「ええ、まあそのようなものですが」
ケインはニューアークでの話し合いにひきもどされる。
ケインの前任者は精神を破壊され、ゼルシアから環されてきた。
その精神からはイメージコーダーは何も読みとることはできなかった。
『一体、山陵王は何者なんだ。彼らに何をしたんだ』
ケインは反問していた。
彼の名前はネイサン。地球人で初めて「タンホイザーゲイト」から帰って来た男。そして今は、山陵王と呼ばれる男。
彼は,このゼルシアにある地球自然保護区に往み、ラシュモア山を支配している。宇宙飛行士にして、世捨て人なのだ。
彼が行って帰った、タンホイザーゲイトはこの宇宙の淵といわれ、新宇宙への門であり、ここからは別の世界が始まるといわれていた。
30年前、恒星星間船アンバサダー号は送り込まれ、そのアンバサダー号は最近帰還してきた。が乗組員で生き残っていたのはネイサンだけだった。
ネイサンは宇宙省の徹底的な心理分析を受けた。 ネイサンの心は空白だった。地球を出発して以降、30年間の記憶はまったく残っていなかった。
ネイサンは宇宙省のリハビリテーションセンターから、姿を隠した。というよりも逃走したのである。
その後、宇宙省の執拗な捜索にもかかわらず、彼の行途は洋として知れなかった。
やがて、彼の存在があきらかになったのは、ある雑誌に発表された小説からだった。
ネイサンの小説は、いわば、言語によるドラッグだった。
その作品を読んだものは、ネイサンの言語による想像力の爆発に酔いしれた。
彼ネイサンの作品は、「21世紀のバイブル」と呼ばれる存在まで評判を高めた。
各テレビ局、出版社、映画会社などは、彼の居場所を知ろうとしてやっきになった。
が、彼の出版エージェントは仲々、口を割ろうとはしなかった。
彼の居場所がわかったのは、宇宙省のエージェントによって、その出版エージェントである、ネフターが圧力を受けたからだと言われている。
彼は今、世界の残された卑怯でもある「ゼルシア」国にあるラシュモア山に住んでいた。
ラシュモア山はこの地球で残された唯一のエルドラド、この21世紀の地球から、また時間の流れから切りはなされた別世界だった。
過去、ラシュモア山には多くの「世捨て人」が流れ込み住んでいた。
またラシュモア山城には宇宙産のドラッグ、「ドラガ」が栽培されていたのだ。
(続く)2014改定
1988年作品 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所