夢王たちの宴ードラッグ戦争の痕でー■第29回■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■第29回■
「スプローギン大佐、残念だね」ポラードが大佐につぶやく。
「残念なのはどっちかね、ボラード君」
「あんたは遅かったよ」
「何をいっていろ。負けおしみかね」
「いや、違う。すでにもうミサイルは発射されたよ」
「何だと、おい、お前調べに行け」
スプローギン大佐は一人の兵士に命令した。
「仲間によってね、ビスラ川の河底の基地から発射されたのだよ。あなたはミサイルを敵陣営に発射したと考えるだ
ろう。がわたしはソビエト連邦を含む東ヨーロッパのワルシャワ条約同盟国に対し発射したんだ。
もう数分でカタがつく。でも君達はそう考えなかったろう」
「くそっ」
スプローギン大佐は.ジェイポラードを銃でなぐりつけた。
「当然、同盟国はアメリカ合衆国を含むNATA軍および敵陣宮からのミサイルだと考える、それでジ・エンドさ。
一発でも小型のミサイルが爆発すれば、世界は大戦争に発展する。
といってもドラッグ=ウォーなんだがね」
先刻の兵士がもどってきた。
「大佐。同盟国に一発のミサイルが打ち込まれた様です。条約軍は戦闘状態に入りました」
「ボラード、君は世界を滅はしたな」
「いや、大佐、それは違う。私は、、新世界を創造したのだ」
「よし、たわごとはいい。表へこいつらを連れ出せ」
「どうやら、君は自分の体を戦車でひきつぶされても白状しそうに
ないな」
スプローギン大佐が求めているのは、JP359の中和剤だつた。
スブローギン大佐は、ホラードの研究室を襲撃した時に、中和剤を作っていたらしい事を発見していた。
が、すべてのJP359の中和剤データはボラードがにぎっている。
シュッカが、ジェイボラードに神経緩和剤を射つ。
「それじゃ、、これはどうかね」
スプローギンは兵士に命令した。
兵士が連れて来たのはアイラだ。
ボラードは、彼がこれからやろうとするその意味が理解したわかった。
「やめろ、スブローギン」
ポラードは声をかぎりに叫んでいた。
兵士はポラードと同じように道路の上にアイラを横たえ、しばりあげた。
「ボラード、私の事を気にしないで」
「いやだ、だめだ、アイラ、私の犠牲になるべきではない」
「愁嘆場はそのくらいにしろ、ポラード、我々が本気である事を見せてやる。やれ」
スプローギンは命令する。
「くそっ、やめてくれ、わかった。白状する」
しかし、スプローギンはストップの命令を出さない。
戦車はゆっくりとアイラの体の方に近づいてきた、
「白状する。言ってやる。スプローギン、やめてくれ」
「ポラード‥」アイラが絶叫している。
戦車のキャタピラはフイラの体をバラバラに引きさいた。
血の海である。
片わらの兵士がはいた。
「アイラー。くそっ」
ボラードの叫びは、人間のものとは思われなかった。
声はワルシャワ旧市街に響きわたる。
「スプローギン、覚えていろ」
ポラードの体は小刻みに震えていた。目は何にもみなかったように固くつぶっている。
やがてヽポラードの目から血の涙 あふれでていた、疑いもなくそれは血だった。
ボラードの中の脳は、第2回目のJP359を搭拉したミサイル発射の指令をだしていた。
ポラードの秘密の基地から、それは蒼穹に向かって放たれていた。
スプローギンはボラードに言った。
「次は君の番だ。君の場合はゆっくりやってやる。まず、左手からだ」
ボラードは返事をしない。自らのからにこもっているようだった。
「いいか、ポラード、白状するなら今だぞ」
沈黙が続く。
「よし、やれ」
「大丈夫ですか、大佐」ドクター・シュッカが尋ねた。
「いい、私がすべて責任を負う。本来はこやつが、先に戦車にひき
つぶされるべきなのだ。国家に対する裏切り者。いや、全人類に対する裏切り者なのだから」
戦車は再び、ゆっくりとポラードの方へ近づいてくる。
上空に飛行物体が飛来してくる。JP359を積んだミサイルである。
誰も気づいてはいない。近距離をマッハ3でそいつは飛んで来た。
いやな音がした。
ボラードの左手はなくなっていた。戦車が通りすぎたのだ。
「うっ」ポラードはうめき声をあげる。
瞬間、あたりは光に包まれた。
その時、敬虔なカトリック教徒であったスプローギンは自分自身が、
まるでゴルゴダの丘にいて、キリストの処刑に立ち合っているように惑じた。
張り付けにされたキリストか路上のポラードの像と重なりあった。
それが、この世界においてスプローギンが見た最後の光景で、スプローギンの脳裏に焼き着いた。
ボラードの顛の中では、アイラの愛しい姿が思いおこされていた。
神の左手の伝説はここに終止符を打った。
■
また別の夢世界だった。アイラは変わらぬ姿で人間の姿だ。
アイラは、ポラードの応接間で、グランドピアノを弾いていた、その曲は『ハルフォードの稲妻』である。二人の好きな曲だった。
『ハルフォードの稲妻』は大海原を行く小さな帆船を歌ったものだ。
大荒れの嵐の海を船は波頭にもて遊ばされ、海面を上下しながら
進んでいく。
そのイメージが実体化している。
ハルフォード岬の燈台が『吃えてくる。それを最初に発見するのは高校の教師なのだ。
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その間に、、、そして一つの世界は終った。
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フォトンで演奏される『ハルフォードの稲妻」はいよいよ最後の1章を残すだけだ。
「そうか、わかったよ、少佐、また会えるかもしれん」
「そう、ドクター、私もそれを希望している]
ダン。
ピブラフォーンが弾き終った瞬間、大教界の壁は続々と崩れ落ちていき、そこから一勢に光が放たれる。
光の悪魔たちであった。
■
ゴルゴダシティの夢世界でも、ミサイルが他の夢世界へ向かって発射されたのだ。
しかし大教界にいるゴルゴダシティの市民たちはそのミサイルの飛翔する場面は見えなかった。
もうビブラフォーンの演奏で感極まっていたからである。
衝撃が、移動宮殿フォトンを襲ってきた。光が放たれた直後、黒い闇がゴルゴダシティを覆った。
やがて大自然が戻ってきた。
■ゴルゴダシティの夢世界は白球と化した。
ジェイとアイラの意識は、何も存在しない空間の中を浮遊している。
「ジェイ、また、再び、新しい世界が始まるのね」
アイラの意識がいう。
「そう、今度の世界は君と一緒だよ」
二人の意識は、急激な光の激流の中に飲み込まれた。
そして、長い暗黒が続く。
(続く)
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