ロボサムライ駆ける■第3回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
漆黒の闇の中、小さな明かりが灯された。何やら呪文が繰り返されている。
京都、中央区にある広大な屋敷、足毛布博士の屋敷である。
度の強いメガネをかけ、白髪まじりの蓬髪の五〇くらいの男は、なにやら独り言をつぶやいていた。
足毛布博士は秘密の地下室で祈りを捧げていた。
この儀式のことは、誰も知らなかった。それを知れば、足毛布博士を、西日本都市連合も放っておかない。
足毛布博士は、日本古来の着物を脱ぎ捨て、彼が信じている大義のための服装に着替えていた。
何かの祭壇がある。日本古来の神棚ではない。
『古来より、日本へ飛来しました我々足毛布一族、ついにその目的の貫徹はちこうございます。願わくば、私の世代にその願いを叶えられんことを』
祈る足毛布博士であった。
足毛布博士は、京都市内に広大な土地を占めていた。この本宅以外にロボット製作所が近畿エリアに四十ヵ所ある。
[足毛布人造人間製作所]
といえば、泣く子も黙る西日本の大企業である。
が、最近、足毛布博士は政府の要職も、会社の経営も他人に譲り渡していた。
◆
「博士、博士はご在宅か」
八足移動ビーグル、クラルテに乗った武士が、玄関先で呼ばわっていた。
足毛布博士の屋敷は、博士が人嫌いのため、使用人は雇っていない。全自動ロボットシステムで構築されていた。
「これはどちらさまでしょう」
玄関に設置されているロボットボイスが答えていた。
「水野都市連合議長の使いの者じゃ。足毛布博士、至急にご登庁をお願いしたい。火急のこととあり。以上を足毛布博士にお伝えいただけるか」
「わかりました。至急お知らせ致しましょう」
足毛布博士の情報モジュールは、都市連合からの連絡情報を一切入力させない設計になっている。それゆえ、わざわざクラルテに乗った使者が現れるわけである。
博士は書斎兼図書室にいた。古書籍がずらっと並んでいた。一冊の本を取り出す。タイトルは『西洋の没落』となっている。
博士は誰かにしゃべっている。
「貴公はシュペングラーの『西洋の没落』という本の名を聞いたことがあるかね」
「いや、そのような本、耳にしたこともない」
「ふふん、まあ、ロセンデールなら知っていよう。あれは第一次大戦の前だったか、このページに書いているのだが。文明が没落する兆候はテクノロジズムとオカルティスムの流行と言っておるのじゃ」
「ふふぉ、我々のことか。予言しておったのか、そのシュペングラーとか申す霊能師」
続く
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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