染み入れ、我が涙、巌にーなみだ石の伝説第5回■最終回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所(1980年作品)
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第5回ー最終回
私が目をあけると、ヘリはすべて夜空から消えていた。
残滓が飛び散っていた。
滝は、滝であった生物は、緑色の光を櫛びた物質に変化していた。
私は草原に腰をおろし、涙岩をながめていた。
手になみだ石をにぎりしめていた。
リーラが私の側まで歩いてきた。
しばらくだまって私をながめていた。
「さっき、パスの転落の時助けてくれたのは君だね、リーラ」
「そう私。あの滝という人に来てほしくなかったのでパスを落としたの。バスの運転手も地球防衛機構の一員だった」
思わず、私たちはお互いを抱きあい、耳元で小さな声でささやいた。
「きようならミユー」
そして、私は涙岩の方へかえっていくリーラに同じように小さい声でつぶやいた。
「さようなら、リーラ」
さようならを言った時、リーラの目にも涙が浮んでいた。それは、私がいま手にしているなみだ石とよく似ていた。
リーラは罪人の私に最後の別れの機会をあたえてくれたのだった。
もちろん規則違反だ。
私という罪人に、本当の記憶をとりもどすきっかけをあたえ、私達の星への帰還をみかくらせるのは。
私は、彼女達の旅立ちを、最後まで見届けようと決心した。
彼女達、それからこの穢れた地球から逃れる人間達は、涙岩のまわりに整列した。
涙岩がまた輝きを増し、緑の光が彼女達をとりかこむように、みえた。
やがて彼女リーラ達の体は、涙岩が発する緑の光の中でだんだん小さくなっていき、しまい脚は見えなくなっていった。
光り輝く涙岩の表面に小さなひびがはいっていき、まもなく、ひびは、涙岩全体を覆った。
緑色の光はオレンジ色に代わり、涙岩の端から、はじかれるようにくづれていく。このかけらは緑色に戻る。細かいなみだ石の集団は、人々が圧縮され乗り込んだ宇宙船なのだが、しばらく空間にとどまっていた。
そして、突然に、夜空の中に、すいあげられるように上昇していく。
もう、地球防衛機構の防御手段では、手に終えない存在となった。
残った涙岩の部分は、崩れる速度がしだいに早くなり、最後には、爆発を起こしたように四方に飛び散り、最後には、涙石の集団の方へ、引きつかれていった。
別れの花火のようだった。
なみだ石の集りが、すべて、夜空に吸い込まれていくのを、私は最後までながめていた。
私の手の中には、リーラから渡された「なみだ石」が残っている。
思わず握り締める。リーラの体の温もりが思い出された。
この地球に、、一人、、取り残されたのだ。
癒される事のない寂しさ。
私ミユーは、なみだ石を握り締め、今までの2000年分の、、
過去の自分の歴史と、これから、長く続くであろうこの地球での、長い長い日々を思った。
私はかっての地球人としての生活や歴史を追っていくだろう。
時間はとりもどすことはできない。でも、たぶん場所はとりもどせる。
場所の記憶がある。
それは、地球人として私の子孫を訪れる旅になるはずだ。祖先として
子孫を、、
急に、私は、その時代、時代と愛していた女たち、子供たちを
思い起こしていた。その場所をたずねる、長い旅が、私を待っているだろう。
「リーラ」と、思わず叫んだ。
叫びとともに、私のほほを、生暖かいものが流れ、
それが「なみだ石」に染み込んでいった。
(完)
染み入れ、我が涙、巌にーなみだ石の伝説第5回■最終回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所(1980年作品)
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