腐敗惑星のアリスー第2回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
腐敗惑星(2)《回収使ゲノン登場》
遠い旅だった。回収使の彼は思った。
やっと恋人に会えるのだ。が、その恋人はもう過去のことは忘れている。
なぜあの星に飛来してきたのか。
そんなことすらも、ひょっとして昔の恋人である「ゲノン」のひとすら覚えていないのでは。
ゲノンはぞくっと身震いした。
そんなことはありえないはずだ。
我々の種族は、記憶をよりどころに生きている種族なのだ。
それゆえに、回収子「ゲノン」の役割は大変なのだ。
このあたりの「宇宙の記憶を任務づけられた端子」、コードネーム“レムリア”が、連絡をしてこないばかりか。どうやらレムリアは、形態変化を起こしたらしい。
そういう報告が、「ノド」のドームに連絡が入ってきていたのだ。
急遽、回収使が派遣されることになった。それがゲノンだった。
《回収使ゲノン》
「何という汚らしい星だ」
それがゲノンが腐敗惑星を見た印象だった。
人間型肌色か、人間体の血色、その肉色、どすぐろく腐った色が地表の上で、ぐるぐるまわって移動していた。
まるで惑星自体が生物で、腐った肉の海がたゆとうているようだった。
臭い感覚はゲノンにはなかったが、もしゲノンにそれがあるとしたなら、
嘔吐していたろう。
それほど遠くから見ても、感覚的におぞましい星だった。
(本当にレムリアは、まだこの星で生き残っているのか)
絶望がゲノンの心を占めた。
(2)
そのとき、腐敗惑星の上で、一角獣は、長い時間、舞おうと思った。
その舞踊行為が、償いにあるかもしれないと思ったからだ。
その舞踊行為以外に感情を表す方法がなかつた。
涙も、でない。
はぎ取られてしまった人間としての感情。
心の動きは決して戻ることはないだろう。
一角獣の筋肉がはためく。
血流が彼の体を巡る、波打つ。
充分な酸素が必要だつた。
(くそ、この星はあまりに寂しい)
感情が爆発する。
彼の体を充分に動かすにたるだけの酸素がなきに等しい。
一角獣は、昔の元とうりの自分(他の生命体)の姿を思い起こそうとする。
が、残念。記憶がないのだ。
誰かに、はぎ取られた、そんな気がした。
『僕は一体何者だったのだろう。今の僕は一角獣だ。
悲しさを紛らわせるために踊るんだ、一角獣にすぎない事を忘れようとして。
それもこの放棄された星の上でただ一匹だけだ。なぜなんだ。寂しいよう』
彼は興奮していた。顔には何かが濡らしている。
『何、これ、生暖かい。いやだ。血だよ』
いましがた、彼の鋭い角が、屠った相手の血だった、、事にきづく。
『僕の踊りは死の舞踊だったんだ。任務はこの呪われた
星の腐った生物を殺戮することだ』
彼は急に自分の任務にきずく。
『でも、一体だれが僕にこの役割を』
いっそう疑問が深まる。
腐敗惑星の肉は、一角獣の足まで及んでいた。
少し動くと足がずぶっと沈んだ。
目の前で爆発が起こる。
何やら、分からぬ生物の内蔵が膨れ上がり破裂したようだった。
臭気が立ちのぼり地平線は真っすぐには見えない。歪んで見えた。
彼の頭の中に、急にイメージが広がっていた。
記憶がもどったのか。それとも。
(禁断の実を発見し、彼女がそれを食べたなら、そう、王が発生するかもしれん)
『一体、何だ、このイメージは。禁断の実だって、それに、彼女だって。何なの』
この意識の流れは。彼は一層激しく体を動かす。
目の前の腐敗物へ体ごと、身をぶつけるユニコーンだった。
(続く)20090501改定
腐敗惑星のアリスにタイトルを変更しました。20200614
(トリニテイ・イン・腐敗惑星・1975年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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