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東京地下道1949■第13回

2013年04月11日 |  東京地下道1949
東京地下道1949■第13回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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ムサシは誰も信じない男だ。
彼の人に対する信頼感は、戦争時の体験によって完全に破壊されていた。

彼の学校の教師は、厳しく、愛国主義を教え軍事教育を旋してきた。
また、さらに、人格者であるという評判もあった。
ロシア軍の戦車T34を前にして、彼は生徒達をほおりだし、自分だけ助かろうと逃げたのだ。

ムサシの学友は皆殺しにされた。

ムサシは執念深く、その教師の男を、ソ連侵攻軍前線からの逃亡者の群れから捜し求め、みつけ殺した。ムサシに、彼は土下座し謝ったが、許さなかった。

ムサシのアジトの二階に恵がしばられ、ころがされていた。
ムサシのアジトはトウキョウの旧区役所でピルの廃墟である。

「心配するな、恵、お前には手を出さない。鉄を殺ったら、すぐ帰してやる」
「鉄が、あんたなんかに、殺されるもんですか」
ムサシは、ふっと笑う。
「ふ、恵、それはどうかな。とにかく奴を殺らなきやならないからな。掟があるんだ」
「掟ですって?」
「いいか、恵。奴のおかげて、何人もいた俺の仲間が全滅したんだぞ。奴が食糧トラック襲撃の一件をぱらしたんだからな」
「しかたがないわ。保安部につかまったんですもの」
「ほう、やはりな」
恵は、ムサシの誘導質問にひっかかった。

「鉄が、襲撃の件をばらしたことに間違いはないようだな。
仲間をうらぎらないというのが俺たちの掟だ。しかしなぜ、お前がそれを知っているんだ」
「私が、鉄を助けたのよ」
「何、お前が。恵、ふーん。お前は気の強い女っ子だな」
「お願い。鉄を殺さないで」
「今度は、、お願いか。、、だめだな。掟だからな。鉄も、充分それを承知しているはずだ」

「でも」
「うるさい。鉄のおかげで、皆、仲間が死んじまったんだ。お前の兄貴もだ」
「えっ、お兄さんも」
 恵の顔色が変る。

「そうだ、それでも、、まだ、、鉄をかぱうのか」
 答えはなかった。恵は青い顔になる。
 
鉄は、ムサシのアジトの、かなり手前で車を留める。
「どうした、鉄」
「悪いが、竜。ここで待ってくれ」
「どういう事だ、鉄」
「これは、ムサシと俺の問題だ。お前は関係ない」
「関係ないだと、恵ぱ俺の妹なんだぞ。どういう口を聞く。
鉄、いいかげんにしろ」
 竜は、鉄をつかもうとした。

一瞬、早く鉄は体をかわし、竜に足けりをいれた。
みぞおちにきまる。竜は気を失った。        
「竜、すまない。すべては俺が、保安部に食糧車襲撃の一件をばらしちまったことから、おこった事だ。恵は、、必らず俺がとりもどす。ゆるしてくれ」
               
竜を車にのこし、鉄はくずれかけた屋敷の前で立ちどまる。
鉄は、はるかにかすむトウキョウ城をながめた。

トウキョウ城は、戦災を受けずトウキョウ市の真中にそびえたっている。
しかし、日本の象徴であったトウキョウ城は、ソ連軍の占領地区にあるのだ。

トウキョウ城をみながら、目測し、磁石をとりだし、方向を確かめる。
例の地図と現在のトウキョウ市の地図を見ぐらべる。      
「どうやら、ここらしいな」        

 竜は独りごち、江戸時代の旧大名屋敷の庭へ忍びこむ。
トウキョウ市攻防戦の際、かなりの被害を受けたらしく、荒れはてて人影はない。
庭園の池をさがす。池も見るかげもなく、干上がり、形が辛うじてわかるくらいだ。    

(続く)続く090901改訂
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