宇宙から還りし王(山稜王改題)第24回 ■
(1978年作品−2020年改稿)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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http://plaza.rakuten.co.jp/yamadas0115/diary/201609230000/
飛鳥京香・SF小説工房■株式会社山田企画事務所■
「ケイン」山陵王が呼んでいた。
「ケインくん、よくここまでやってきたね」
山陵王はケインに手をさしだした。二人は握手した。力強い握手
だった。
「それでは、ケイン君、私について来たまえ」
山陵王はケインに先立ち、宮殿へと入っていく。
そこには多くの人々がいた。皆、生き生きした眼をし
ている。長い回廊を歩かされる。どうやらドームの中心部にむかっ
ているようだ。
この宮殿の中はドームの中にあるにもかかわらず、
植物が原生していて、自然の風さえも吹いている。
おまけに天井を見あげてもドーム壁がまるで見えなかった。
空が、そのまま見えて
いる。
「ケイン君、この木を見てくれたまえ」
ネイサンが指さしていた。その木はドーム中心に見えていた木だろう。このドーム内の中で一番巨大で、空あるいは宇宙を枝でささえている様にも見えた。
その木には一種の精神感応力があるのではとすらケインは感じた。
「この木はいったい」ケインは思わず口から言葉がこぼれでていた。
「この木かね、ふー、これが世界樹というのだ」
「世界樹だって? どういう意味が」
「この地球そのものをシンボルした意味だ。ケイン君、その樹の根
元を見てみたまえ」
ケインは根元にさわる。そいつは息づいている。まるで人間の血
管にふれた様な感じがする。
「これは何ですか」
「いいから、少し掘ってみたまえ」
ネイサンはケインにレザーシャベルを渡す。
やわらかい皮膚の様な木の根元だ。少しずつ掘ってみる。やがて
レザーシャベルが何かを焼き切った。こげくさいにおいがする。
たんぱく質が燃焼しているにおいだ。ケインはそこに手をあてて、土
をはらってみる。
人間の皮膚そのものだった。
その異物にそって手を土の下へ掘りさげる。
瞬間、ケインは驚きで目がくらみそうになる。そこには眼があっ
た。まぎれもない人間の眼だ。
しかもそいつはまばたきもしないでケインをにらんでいた。ケイ
ンは急いでその部分を掘りおこした。
人間の頭部だ。首から下はゴム管の様になり世界樹につながって
いる。
そいつはにやりと笑う。
「ようこそケイン君、わが同胞よ」そいつはそう言
った。
ケインはあわてて土の上へ投げすてる。そいつは笑った。笑い声
は一人のものではなかった。土の中から何百人もの声が響いてくる。
ケインはその顔に記憶があった。アンバサダー号の乗組員の1人
だった。
ケインはネイサンの方を向いて立ちあがった。
「あなたは何をしたのだ。アンバサダー号で」
「その質問はおいおい答える。その前にリーファー君の姿を見ただろ
う、ケイン君」
「リーファーをあの鳥の姿に変えたのはあなたなのか」
「そうだ、きみの友リーファーくんは、君と同じ様に出版エージェントを装い、
私に近づき、私の小説世界の源泉を知ろうとした。それで彼に変貌
してもらったのだよ」
ネイサンは、そこで、少し言葉をおいた。
(続く)2020121
■宇宙から還りし王(山稜王改題)
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