源義経黄金伝説■第44回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・Manga Agency山田企画事務所
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第4章 一一八六年 足利の荘・御矢山(みさやま)
階段丘ちかくの草陰から、戦いの様子を見る武士たちがいる。
頼朝の探索第である。広元から,後に残り西行たちの行方を見張り報告するように指令を受けていた。
『よいか。西行の遺骸より、必ず銀の猫をとりだせと。それが西行を殺した
証明となる』と。
一人がつぶやく。
「いかがいたそう」
「あやつらは、どうやら、京都あたりから西行をつけてきた悪党の群らしいの
う。我らより先に手を出したか。あるいは大江広元さまの手ずるか」
「加えて、武蔵坊弁慶もおる」
「かえって好都合ではないか。西行らも、先の賊をやっつけて気も緩んでいよ
う」
「それはそうだ、好機ぞ」
武者たちは、西行たちを倒そうと、飛びだそうとした。
その時、武者の背後に人影があらわれる。
「おぬしら、飛び出すのはぬ、わしを倒してからにせい」
僧服をまとった西行と同じ年くらいの老人である。驚く武者たち。
「主らのもくろみとうり、そう、うまくいかぬのが面白いところでのう」
「な、何奴、貴様は西行が手のものか」
「ほほう、坂東には俺の名、まだ通ってはおらぬか」
「貴様は何者だ」
「覚えておけ。といっても、お主らはすでに冥府への道を走っておるのでな」
「何を抜かす。この乞食坊主め」
「乞食坊主とはよく抜かしたわ。冥府への土産によく覚えておけ。俺は義経殿
が武道の師匠、鬼一法眼(おにいちほうがん)よ」
鬼一方眼は、杓丈をゆるりと探題たちに向けている。
京都の陰陽師、鬼一方眼は、結縁衆、道々の輩も引きいている、先日の競技場
へ結縁衆、道々の輩の大いなる示威行動を仕切っていたのは、当然、鬼一である。
「げっ…」
武士たちはたじろぐ。
「ふふつ、板東でも少しは名が通っておるか。うれしいのう」
鬼一にこりと笑う、それが武士たちにはかえって恐ろしげに見える。
「何、義経の師匠だと。それでは、師匠相手に鎌倉武士の力を見せる。相手
せねばならないな」
切りつける馬上の武者。が、鬼一法眼は攻撃をスルリと交わし、見る間に彼ら
を倒した。まるで舞台の上で舞いの練習をするようにである。ただ、舞台と違
うのは血しぶきが、あたりに舞い降りている。
彼らの馬は逃げ去っていた。
「ふっ、たわいもない奴らだ。いずれも鎌倉殿が手のものか」
鬼一法眼は、倒れている武者たちの衣装を調べた。
そこへ西行たちが、この騒ぎを聞き付け、何事かと賭散じてきた。
競技場祭事中央の悪党の太郎佐たちの死体は、十蔵が、背後にいる結縁衆を呼
び寄せ片付けている。
「おおう、これは鬼一法眼殿か。後詰めありがとうござる。この者たちは、何
者か」
「どうやら、鎌倉殿が手の者らしい。どうも、まだ、奥州藤原の沙金を狙って
おったらしいのう」
「頼朝殿も、まだまだ、やるものじゃ。あきらめきれぬか」
「で、これから、どうなさる」
「ちょうどよい、潮時かもしれぬ。のう、鬼一殿、俺は盗賊に襲われ、命から
がら逃げ出したのだ」
「それでは、秀衡どのよりの沙金は……」
「盗まれて行方しれずだ」
「それでは、この沙金は行方しらずにせねばなりませんな」
鬼一は西行の言葉を受けた。
「鬼一殿、十蔵殿、お願いできるか。弁慶殿は、静殿を平泉の高殿までおつれ
くだされい」
「さあ早く、この板東を一時離れ、再び奥州に逃げ帰るましょうぞ」
「ふふつ、逃げ帰るといたしましょうか」
皆が、この西行の言葉に和していた。
下野の国足利の荘・御矢山の突風は吹き止みそうにない。
(続く)
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階段丘ちかくの草陰から、戦いの様子を見る武士たちがいる。
頼朝の探索第である。広元から,後に残り西行たちの行方を見張り報告するように指令を受けていた。
『よいか。西行の遺骸より、必ず銀の猫をとりだせと。それが西行を殺した
証明となる』と。
一人がつぶやく。
「いかがいたそう」
「あやつらは、どうやら、京都あたりから西行をつけてきた悪党の群らしいの
う。我らより先に手を出したか。あるいは大江広元さまの手ずるか」
「加えて、武蔵坊弁慶もおる」
「かえって好都合ではないか。西行らも、先の賊をやっつけて気も緩んでいよ
う」
「それはそうだ、好機ぞ」
武者たちは、西行たちを倒そうと、飛びだそうとした。
その時、武者の背後に人影があらわれる。
「おぬしら、飛び出すのはぬ、わしを倒してからにせい」
僧服をまとった西行と同じ年くらいの老人である。驚く武者たち。
「主らのもくろみとうり、そう、うまくいかぬのが面白いところでのう」
「な、何奴、貴様は西行が手のものか」
「ほほう、坂東には俺の名、まだ通ってはおらぬか」
「貴様は何者だ」
「覚えておけ。といっても、お主らはすでに冥府への道を走っておるのでな」
「何を抜かす。この乞食坊主め」
「乞食坊主とはよく抜かしたわ。冥府への土産によく覚えておけ。俺は義経殿
が武道の師匠、鬼一法眼(おにいちほうがん)よ」
鬼一方眼は、杓丈をゆるりと探題たちに向けている。
京都の陰陽師、鬼一方眼は、結縁衆、道々の輩も引きいている、先日の競技場
へ結縁衆、道々の輩の大いなる示威行動を仕切っていたのは、当然、鬼一である。
「げっ…」
武士たちはたじろぐ。
「ふふつ、板東でも少しは名が通っておるか。うれしいのう」
鬼一にこりと笑う、それが武士たちにはかえって恐ろしげに見える。
「何、義経の師匠だと。それでは、師匠相手に鎌倉武士の力を見せる。相手
せねばならないな」
切りつける馬上の武者。が、鬼一法眼は攻撃をスルリと交わし、見る間に彼ら
を倒した。まるで舞台の上で舞いの練習をするようにである。ただ、舞台と違
うのは血しぶきが、あたりに舞い降りている。
彼らの馬は逃げ去っていた。
「ふっ、たわいもない奴らだ。いずれも鎌倉殿が手のものか」
鬼一法眼は、倒れている武者たちの衣装を調べた。
そこへ西行たちが、この騒ぎを聞き付け、何事かと賭散じてきた。
競技場祭事中央の悪党の太郎佐たちの死体は、十蔵が、背後にいる結縁衆を呼
び寄せ片付けている。
「おおう、これは鬼一法眼殿か。後詰めありがとうござる。この者たちは、何
者か」
「どうやら、鎌倉殿が手の者らしい。どうも、まだ、奥州藤原の沙金を狙って
おったらしいのう」
「頼朝殿も、まだまだ、やるものじゃ。あきらめきれぬか」
「で、これから、どうなさる」
「ちょうどよい、潮時かもしれぬ。のう、鬼一殿、俺は盗賊に襲われ、命から
がら逃げ出したのだ」
「それでは、秀衡どのよりの沙金は……」
「盗まれて行方しれずだ」
「それでは、この沙金は行方しらずにせねばなりませんな」
鬼一は西行の言葉を受けた。
「鬼一殿、十蔵殿、お願いできるか。弁慶殿は、静殿を平泉の高殿までおつれ
くだされい」
「さあ早く、この板東を一時離れ、再び奥州に逃げ帰るましょうぞ」
「ふふつ、逃げ帰るといたしましょうか」
皆が、この西行の言葉に和していた。
下野の国足利の荘・御矢山の突風は吹き止みそうにない。
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