ロボサムライ駆ける■第57回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
■第七章 血闘場(5)
主水は過去を思い出していた。
三年前、主水は大帝の前に膝を屈していた。
「そちが早乙女主水か。日本からの留学ロボットか」
ルドルフが尋ねた。
「さようでございます」
側には心配そうな顔をした、マリアが佇んでいた。
「本来ならば、黄色いロボットなど会いたくはないのだがのう」
ルドルフ大帝は主水を見下すようにしゃべった。ルドルフは黄金のいすに座っている。ここはベルリン、ルドルフの宮殿、謁見の間である。
霊戦争後、ヨーロッパの大国となったのは、ルドルフ大帝率いる新生ドイツ帝国である。このルドルフの宮殿は、ヨーロッパ各国から贈られた美術工芸品で一杯だという。美的センスにおいてはヨーロッパ一だと思われていて、本人にもそう思っている耽美王である。財宝には眼がないのだ。
「おまけに、そちはこのリヒテンシュタイン卿の娘マリア=リヒテンシュタインを嫁に迎えたいというのか」
黙って膝を曲げているだけの主水である。
「これ主水とやら、返事をせぬか」
宮殿の誰かが声を掛けた。
「さようでございます、殿下。ぜひともマリア=リヒテンシュタイン嬢を我が嫁に」
「が、貴公知っておろう。マリアはビスマルク公の息子ザムザと婚約しておるのだぞ」
主水はルドルフを見上げた。
「それも充分承知しております」
主水はキッとして答える。
「ほほう、充分だと。どれくらい充分なのかな。では、マリアを掛けて、ザムザ=ビスマルクと対決するかな」
ルドルフは主水の胸を内を探るように尋ねた。
「……」
「どうじゃ。返事をせい」
その時、宮殿に急ぎ走り込んできたロボットがある。
「大帝、こやつが何と言おうと決闘させて下さい」
金髪で、力強い顎、冷徹な青い眼、鷲鼻、おまけに二メートル二〇はある巨身。ザムザ=ビスマルクである。
「この東洋の黄色い猿ロボットに、むざむざ婚約者を盗まれたとあっては我が家の名誉にかかわります。大帝、どうか決闘をお許し下さい」
息せききって言うザムザであった。
「どうじゃな、主水。もし、この決闘の申し出を受けなければ、東洋の卑怯者として貴公の名は長く残るであろうよ」
ルドルフはひじ掛けに手を当て、足を組み、ゆっくりと言った。主水をけしかけているのだ。
「主水、決闘だ」
「主水、どうか、私のために決闘しないで。卑怯者と言われてもいいではないの。あなたがいなくなることが恐い」
側にたたずんているマリアが嘆いていた。「決闘しないというならば、私がマリアを殺すぞ」
ザムザがマリアを抱き抱えていた。ゆっくりと剣を抜く。
「これ、ザムザ。大帝の前であるぞ。何をしでかすザムザ。恋の嫉妬に目が眩んだか」
「いえ大帝、失礼をお許し下さい。ヨーロッパロボットが、この東洋ロボットに辱めを受けたこと、許しがたいのです」
「決闘せざるをえないな、ザムザ」
主水がザムザの方をキッとにらみつけ、ゆっくり言った。
決闘場所は、ベルリンから離れた田舎の都市、ハイデルベルグである。決闘の町として有名であった。
決闘場には、多数の観客が詰め掛けていた。スタジアムの真ん中で二人は対峙しているのである。正式な決闘のため、ルドルフ大帝が役人を遣わしていた。
東洋のロボットを見ようと、人々は詰め掛けていたのである。二人の一挙一動にスタジアムから歓声が上がっている。空は決闘日和に、雲ひとつなく晴れ上がり、マイン川からの澄み切った風が二人の体をなでていた。
二人は長い間睨み合っている。
「主水、容赦はしないぞ」
「ご同様だ。ザムザ」
叫ぶやいなや両者は中央に躍り出た。
最初のひとたちが、主水の額を切った。
「おおっ…」
という叫び声が観客から上がる。
「ふん、口ほどにもないのう、主水」
「あっ」
マリアが眼をつぶってしまった。
「マリア、眼をつぶるな、お前の愛しい主水が我輩の手で倒れるのを見ろ」
勝ち誇るザムザ。瞬間、ザムザにすきが生じる。それを見逃す主水ではない。
「と-つ」
その慢心の笑みの顔真ん中を主水のムラマサは突き抜いていた。
「うわっ…」
観客のさざめきが主水の耳にも届いた。スタジアムは総立ちである。その時、スタジアムに何かが侵入してきた。
「ザムザ君」
大きな悲鳴が、主水の後から聞こえた。
「この黄色いロボットめが、私の愛しいザムザを…」
主水は、剣を、ザムザの顔から引き抜き、声の主の方へ振り返った。
白馬に乗ったやさ男が、にくしみの青い目で、主水を睨んでいる。怒りのオーラがそのあたりに満ち満ちていた。男はゆっくりと馬から降り、ザムザの体を抱き上げ、ほおずりした。
「ザムザ、さぞつらかったろう」
そして、再び、主水の方を向いた。
「主水とやら、今度は私が相手だ」
まわりの観衆から、宮廷人々が止めに入った。
「お止めください、ロセンデール様。これは正式の決闘なのです」
「いや、ならん。この黄色いロボットに一太刀打ち付けねば…」
「存分にされよ。受けて立ちましょう」
「何をほざく」
それが初めての出会いであった。
(続く)
■ロボサムライ駆ける■第七章 血闘場(5)
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