山之上もぐらの詩集

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蜂の巣

2024年03月07日 | 日記

  蜂の巣


地球の生命力は 明らかに失われている

それは 人間の振るまいの精なのか
そうではない理由のためなのか
あるいはその両方なのか 私は知らない

人間の振るまいの精だったとしても
人間はその振るまいを 改めはしない 
もう遅すぎるし 人間は利口じゃない
他者を生贄にすることは出来ても
自分を生贄にすることは 決してしない

地球の生命力は 明らかに失われている
私の子供時代 当たり前に生きていた生き物たちが
ほんとうに いなくなってしまった
ほんとうに いなくなってしまったのだ

去年の春先 困ったことに 
雀蜂かどうか知らないが 
玄関先に ちいさな巣を作った
玄関先に出来た蜂の巣の蜂たちは
いかにもけなげで 
自分には 駆除することもためらわれた
夏には 活動も数も増え 巣もやや大きくなりかけたが
秋には 数も増えることなく 活動も衰えた
巣は この老人の拳の大きさにも満たない
いつか処理しなければならないと思っていた巣は
明らかに病み始めていた
それでも蜂たちは 巣を守り活動している
蜂たちの生命力は なぜか乏しい
巣の中には まだ小さい彼らの生命が宿っているのだろうか
巣を守る彼らは 飢えているのか 
それとも病んでいるのか 私には分からない
秋の長雨に 巣は茶色く 腐り始めている
初冬 巣の下に 彼らの死骸が落ちている
すでに 巣の中に宿っているはずの生命の気配はない
腐りかけた巣の影で
幾匹かの生き残りの蜂が 
温かい陽光に 余命を貪っている

間もなく 
彼らの地球は 干からびた残骸になった

冬の朝
彼らが浴びていた陽の光の中で
私は 彼らの地球を 叩き落とした
 
地球の生命力は 明らかに失われている
若者たちの生命力は 乏しい
私の子供時代に 当たり前に生きていた生き物たちが
ほんとうに いなくなってしまった
子供たちが  いなくなってしまった