友人は作らない
もう長い間 友人は作らない
少なくなった友人の誘いに たまに一緒に昼飯を喰いに行っても
もう昔のように 夜に酒場に行くことはない
互いに世間の動向も愚痴も 口にはしない
互いの身体の調子と病気が 話題になるだけだ
もう食事代をおごったり おごられたりもしない
互いに一円までも自前の払いだ
食事が終わっても もう喫茶店に寄ってコーヒーを飲みながら
続きの話をすることはない
友人のクルマで自宅まで送ってもらって
別れの挨拶は お互いに「またな」とは言わない
いつもお互いに 昔のように「また会おう」とは言わない
自分は「ありがとう」だけを言う
こんな付合いが 数年前から続いている
お互いに「これが最後なのかも知れない」と感じながら
いつものように 何気ない「さようなら」の挨拶を交わす
走り去るクルマに 自分は小さな声で もう一度「ありがとう」を呟く
時代は変わって 人はもうしんどさ比べもしない
足ることを知って その足ることのさらに知らなかったことを知る時代だ
禍福は糾える縄の如く その縄のさらに細くささくれ立ち
今まさに切れそうなことを知る時代だ
知識でしかなかった先人の言葉を 身でもって本当に体験する時代だ
父母の言葉を 身でもって本当に体験する時代だ
それは哲学でも宗教でも 真理の言葉でもない
もう長くはない寿命を
出来れば せめて悪いことをせずに終わりたい
もう長くはない寿命を
人を傷つけず 傷つけられずに終わりたい
もう長くはない寿命を
人を苦しめず 苦しまずに終わりたい
もう長くはない寿命に
思い出を作りたくないし 残したくもない
もう長くはない寿命を
鏡のように 互いに映る自分の姿を見る