A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

エレキピアノでいつものピアノトリオとは別の顔を見せたウォルタービショップJr.・・

2015-12-10 | PEPPER ADAMS
Cubicle / Walter Bishop Jr.

アンダーレイテッドなプレーヤーという言われ方をよくする。実力がありながら知られていないプレーヤー、知られてはいてもその実力が評価されないプレーヤー達のことを指すのであろう。今活動の場が少なくなっているジャズは、それ自体がアンダーレイテッドな音楽になってしまっているのかもしれないが。

ウォルタービショップジュニアもそのアンダーレイテッドな一人といわれている。幻の名盤といわれたアルバム「スピークロウ」が再発掘されると、そのトリオの演奏がビショップの代名詞になった。その延長上で、バップスタイルのピアニストとしてのビショップの評価は高まったように思う。

たまたま自分が最近紹介したニックブリグノラポールゴンザルベスのアルバムでビショップの名前が続いた。トリオの演奏だけでなく、色々なセッションで重要な役割を果たしてきたのだが、これらの評価というと余程ビショップのファンでないと気が付かないものだ。自分も、改めてピアノがビショップであったのに気づいた次第だ。

有名なミュージシャン、そしてその名アルバムとなると、何度も聴いた気がしてかえって聴く機会が減っている。最近久しぶりにマイルスデイビスでも聴き返そうと思って、プレスティジ時代のコンプリートアルバムを引っ張り出すと一枚目でいきなりビショップが登場した。マイルスの1951年の初のリーダーセッションのピアノはこのビショップであった。リーダー作は少なくても、ビショップの参加したセッションは昔から多い。

ビショップの経歴を見ると、ピアニストとしての活動以外に大学で教鞭をとり音楽理論を教えていたとある。ということは、その演奏活動の中で色々な理論的に解釈の実践もしていたと想像できる。我々はレコードを通じてしかミュージシャンの活動を知ることができなかったが、キャリアを細かく見ると意外な活動をしていることがよくある。ビショップも、実際には幅広い活動をしていたと思われる。

70年代はジャズの世界で電化ブームが起こった時代。マイルスやビルエバンスなどの大物がエレクトリックサウンドにチャレンジし、若手ではチックコリアなども続いた。ファンの中でも賛否両論が沸きあがったが、このムーブメントが後のフュージョンに繋がったのは間違いない。ミュージシャン一人ひとりは一時の熱気に醒めると、それぞれ収まる所に収まっていった。アコースティックに戻って行ったり、両刀使いになったり、反対にさらにそれを極めたり。

ウォルタービショップも遅れ馳せながらこのエレキピアノに取り組んだ。そして、エレピサウンドとパーカッションを活かした8ビート、よりソウルフルな演奏、そしてポストハードバップともいえるサウンドづくりにチャレンジした。このアルバムは、丁度その時に作られたアルバムだ。スピークロウでのピアノトリオを期待するとこれは全く別物である。編成も管を複数加え、曲によってはボーカルも加えてピアノがメインというよりはグループでのサウンドを目指した演奏である。

演奏している曲は、一曲目のオリジナルのバレーランドでボーカルを加えたサウンドを作り、サマータイムやマイリトルスウェードシューズのように昔からのスタンダードをエレキサウンドに仕立て直して、以前のトリオでも演奏した曲を大きく変身させている。最後のタイトル曲キュービクルはハードバップの新旧対決といった感じだ。

実は、このアルバムにペッパーアダムスが参加している。アンサンブルワークで大事な役割を与えられているだけでなく、ソロも多く割り当てられているが、アダムスのエイトビートでのソロというのも珍しい。

ソリストとして独立して一年近く経った1978年6月。この頃のアダムスは大忙しの毎日を過ごしていた。
自分のリーダーアルバム”Reflectory”を録音したのが14日、これは自分自身でも満足できるレコーディングだったようだ。クインシージョーンズが音楽監督を務めたミュージカル映画”The Wiz”のサウンドトラックの録音も連日続いていた。

このビショップのアルバムの録音を行った日も、その仕事を終えてのスタジオ入りだった。
たいしてリハーサルも無く臨んだレコーディングであったのは容易に想像できるが、ビショップの期待通りの役割を果たしているように思う。

更に、ミッキータッカーのセッションを経て、先日紹介したドンフリードマンとカーティスフラーとの共演アルバムを録音したのが直後の26日。そして30日からのライオネルハンプトンの50周年の記念コンサート、その後のヨーロッパツアーに向けてのリハーサルも連日行われていた。
7月1日のニューポートジャズフェスティバルには9つのビッグバンドが終結したが、アダムスは古巣のサドメルを含めていくつかのバンドにもゲスト参加した。まさに眠る暇もない活躍ぶりだった。


このアルバムは、他のリーダーのアルバムにビショップが参加したのではなく、あくまでもビショップのリーダーアルバムである。ビショップが普段見せている顔ではなく、まったく別の顔を見せてくれた。きっとレコードに残っていないビショップの活動というのはもっと多くあるのだろう。

このアルバムが無いと、ビショップは単にバップオリエンテッドなピアニストという評価で終わっていただろう。ミュージシャンの本当の姿、そして日頃の想いを知るにはレコードだけでは難しいというのが良く分かる。
ビショップがアンダーレイテッドといわれる理由も分かる気がするが、この頃のペッパーアダムスの活躍ぶりを知ると、彼もアンダーレイテッドなプレーヤーであったと思うのは自分だけか。


1. Valley Land                      (W. Bishop Jr.)  6:34
2. My Little Suede Shoes                   (C.Parker) 4:50
3. Those Who Chant                   (W. Bishop Jr.)  7:08
4. Summertime                (G. Gershwin - D. Heyward) 8:06
5. Now, Now That You've Left Me               (M. Farber) 6:35
6. Cubicle                         (W. Bishop Jr.)  4:12

Walter Bishop, Jr. (keyboards)
Rene McLean (as,ss,ts)
Pepper Adams (bs)
Curtis Fuller (tb)
Randy Brecker (tp,flh)
Ray Mantilla (per)
Bob Cranshaw (b)
Mark Egan (b)  #1,4
Billy Hart (ds)
Joe Caro (g)
Carmen Lundy (vol)   #1

Produced & Arranged by Mitch Farber
Engineer : Elvin Campbell
Recorded at CI Recording, New York City, on June 21 1978

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 能ある鷹は爪を隠すというが... | トップ | 今年のクリスマスは、このア... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。