原題:「我的父親母親」 英語タイトル:「The Road Home」 個人的には、英語タイトルがもっとも物語にあっているのではないかと思う。 監督の張芸謀(チャン・イーモウ)は、この作品で「ベルリン国際映画祭金熊賞受賞」。『紅いコーリャン』では「ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞」。『菊豆』と『紅夢』で2度の「アカデミー外国語映画賞ノミネート」。『紅夢』で「ベネツィア映画祭銀獅子賞」。『秋菊の物語』と『あの子を探して』で2度の「ベネツィア映画祭金獅子賞」を受賞。アジアを代表する映画作家・監督。他に『Hero』等が有名。小生がもっとも好きな映画作家の一人。ヒロインのチャン・ツィイーはこの作品で一躍世界的に有名となる。
「初恋の来た道」 - 良質アジア映画
これは<奇跡>のように現れた映画である。
一本の道を通して育まれた一途な恋の物語がまるで寓話のように描かれる。
都会でビジネスマンをしている青年ルオ・ユーシェン(スン・ホンレイ)は、雪道を友人に車で送られ、華北の小さな山村に久しぶりに「帰郷」する。それは父の死の知らせをうけたからだ。その小さな山村の唯一の分教場の教師だった父は、新しい校舎建設のため病をおして金策に奔走し、吹雪の中で力つきたのだった。
父の遺体はまだ町の病院に安置されてたが、母(チャオ・ユエリン)は町から続く「道」に遺体を人が担いで帰る伝統の葬儀をすると言って周囲を困らせる。その様子を見ながら息子は村の伝説となった父母の恋物語を思い出いだす・・・・・
40年前、20歳の青年教師ルオ・チャンユー(チェン・ハオ)は、村人たちが待ち望んでいた教師として、村へと続く一本の道を馬車にのってやってきた。少女チャオ・ディ(チャン・ツィイー)は都会からやってきた若い分教場の教師に恋して、その想いを伝えようとする。彼が食べてくれるのではとの一途な想いで毎日弁当を作り続ける。授業中は、彼の範読する声を聴きつづける。
少女の恋心は、やがて彼のもとへと届くのだが、田舎の山村にも「文革」の波が押し寄せ青年は町へと帰ってゆく。そして、少女は町へと続くその「道」で、来る日も来る日も、季節が移り変わりゆくなかで、手作りの弁当をもって彼を待ち続ける・・・・・・・・・・
やがて葬儀も終わり息子のユーシェンが都会に帰る朝。遠くから聴こえる範読の声。聴き覚えのある教師の声、それに続く子供たちの声。その声に引き寄せられるように、歩いてゆく年老いた母。村人たちもやがて集まってくる。それは、遠い昔少女が学校の外から聴いた父の作った文章だった・・・
礼儀正しく、
暖かい気持ちを忘れず、
人、世に生まれたら志あるべし。
書を読み、字を習い、見識を広める。
字を書き、計算ができること。
どんなことも筆記すること。
今と昔を知り、天と地を知る。
四季は春夏秋冬、天地は東西南北。
どんな出来事も心にとどめよ
目上の人を敬うべし・・・・・・・・・・・・・
静かで叙情性を高める音楽。鮮やかな四季折々の森と林、どこまでも続く黄金色の麦畑、丘にのびる一本の道を映し出すあまりにも鮮やかな映像。そしてそこに暮らす素朴な人々と家族の形。それらは豊かになった今でも、我々のDNAのどこかに記憶されている遠い昔日本にもあった<故郷の原風景>。そして、少女の純粋で無垢な心と一途な姿。それはかつて<自分の中>にもあったもの。
そんな忘れかけた何かをもって、この映画は観る人の心の奥へと続く一本の「道」を通って、<奇跡>のように静かにやってくる。そして、ぽろぽろと流れでる涙が止まらない。
観た人にとっては、きっと生涯忘れ得ない映画となることだろう。
あの道を一心にかけて行くところに一途な思いが。
ただ、彼女の走る姿勢はバレリーナのようで。
チャン・イーモウ監督はこれでもかってくらい女優の魅力を引き出しますね。
「秋菊の物語」のコン・リーもとても生活感があって好きです。
何度見ても胸に迫って涙無しには見られません。
素晴らしい映画であった。
↑の解説、文句なしです。
先日、BSでみた、高倉健の映画のメーキングにみた、イーモウ、そのまま。あの映画に真っ直ぐつながる。前提知識まったくなし、にみたのだが、「初恋の来た道」はあまりにおかしい。映画を見ながら、タイトルを付けるなら 原題のまま、あるいは、「道」(フェリーニの映画だ)。
さまざまの過去の映画がこだまする映画でもあった。アラビアのロレンス、ドクトルジバゴ、蜘蛛巣城、。。八甲田山死の彷徨(冗談。。)。
白黒、と、カラーを使い分けているが、うまい、とおもう。少女が着る服は、ピンクしかない。
高倉健、がNHKの番組で言っていたが、「ひとをおもう」ということは素晴らしいことだ。これがイーモウのメッセージだろう。
思う、想う、憶う、。。。
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、映画タイトルは「道」もしくは「家路」が適切かと思います。英語タイトル「The Road Home」を直訳すると「家路」になるように、この映画の主題は「路」を通じた物語です。ヒロインにとっての「路」はかつて青年教師が訪れてきた・帰ってきた路、観るものにとっては自分の原風景や曇りなき幼き時へ導く「路」。
彼女が恋したのは、彼の生き方。
文革の波を乗り切って結ばれた二人。
華北の大自然の中でひっそり必死に想いを貫く姿は実存主義のマスターピースです。