私の実父は私が生まれた翌日戦死しました。相手の国の戦闘機との
空中戦で撃墜され、南の国オーストラリアの近くの海に沈みました。
27歳だったそうです。母は21歳で未亡人になりました。
その後母は再婚し私は家族の愛に包まれて育ち、幸せな80年の人生を
送ってきました。でももし父が生きていたら母と私の人生は違ったもの
になっていただろう、とも思うのです。
私は戦争映画やテレビドラマは見ません。画面で死んで行く人のうしろ
には私のように残された家族がいて、言い尽くせない悲しみがあって、
その人達にはどんな行く末が待っているのだろうと思ってしまうからです。
今ウクライナではロシアに侵略され、たくさんの人が亡くなっています。
その家族の方々の悲しみ、行く末を思うと、持って行き場のない激しい
憤りに心が揺さぶられます。
母は亡くなるまで父のことをほとんど話してくれませんでした。
私も母の心の奥深くをのぞき込むことはしたくありませんでした。
でもある夏の暑い日、ピンク色の花をつけた百日紅を見ながら、
「あなたのお父さんと初めて会った日、庭の百日紅に
きれいなピンク色の花がいっぱい咲いていたのよ。」
と話してくれました。
それ以来、夏が来てピンク色の百日紅の花を見ると、会ったこともない
実父のことを想うのです。そして人と人が争うことの虚しさを思うのです。
長文を飽きずに読んでいただきありがとうございました。