風力発電促進区域に押し寄せる膨大な計画
秋田県の自然景観は・・・
写真上:秋田県の海岸沿いは巨大風車だらけ=秋田市で撮影
秋田県能代市の海岸には日本最大級の海岸林が広がる。「風の松原」だ。面積は760ヘクタール。地域の先人たちが苦労して築いてきた松林である。日本の海岸防砂林のお手本とされてきた。「日本の自然100選」にも選ばれ、「先人の思いが込められた能代の宝」とされている(朝日新聞社編『日本の自然100選』朝日文庫)。その松原も次々と伐採されている。すさまじい自然破壊である。(JAWAN通信139号・中山敏則氏)※JAWAN(日本湿地ネットワーク):日本各地の湿地保護団体のネットワーク組織。ラムサール条約の推進や湿地干潟の保護や回復のための活動を行っている。
今、秋田県内における風力発電計画として、陸上に約80基(1基5000kwとして)、洋上には600基近く(1基1万kwとして)の計画があります(秋田県環境アセス情報)。秋田県は人口100万人を割り込み、その危機的状況を打開しようと、風力発電事業を積極的に誘致して、地域再生のために県内資本を利用し、利益を県内に還元しようとの狙いのようです。さらに国の洋上風力発電促進区域指定を追い風に、“お金落ちて山河(海も)無し”の秋田県となってしまうのでしょうか。北九州市においての風力発電事業は、今のところ響灘と後背地の埋立地となっていますが、今後、北九州国定公園の山地や北九州市東部の海岸に計画が広がる懸念もあります。自治体の公募誘致と国の促進区域指定を注視していかなければなりません。
写真上:秋田県三種町の釜谷海水浴場に並ぶ巨大風車。地面から羽根の頂点までの高さが125mで、30階建てのビルに相当するものもある。浜辺の景観は台無しだ。
国の洋上風力発電促進区域指定はゾーニングと言うけれど・・
ゾーニングというと、風況の良さはもちろん、野鳥の生息や漁業への影響、そして住民の健康に影響がないエリアを風力発電適地として指定するものと認識していますが、秋田県(能代市、男鹿市、秋田市、由利本荘市など)の海域や佐賀県の唐津湾に計画が集中している現状は、逆に悪影響が増大しそうです。悪影響を回避・低減するゾーニングであるならば、①問題の多い沿岸域は促進区域に指定しない。②促進区域であっても、計画が集中しないように設置基数を制限する。③渡り鳥などにとって比較的影響が少ないといわれる沖合を適地とする(沖合での風車建設は浮体式となるため、コストが高くなるが、風況がよいために稼働率が向上するはず)。国による促進区域指定は、もっと慎重に行うべきだったと言えます。
風力発電の効果に疑問がありながら、突き進む計画
天候に左右される風力発電はお天気次第。台風が襲来すると風力発電に頼る地域は停電になる。風頼みなので、1年365日、1日24時間の一定したベース電源にはならない。風力発電先進国のヨーロッパは滅多に台風は来ない。しかも、陸続きのヨーロッパ各国は送電線で結ばれ、電力を融通し合っている。非常時は近隣の国の電力に頼ることができる。日本にはそのような広域的な電力システムがない。だから日本では風力や太陽光はベース電源にならない。~JAWAN通信139号・中山敏則氏~
写真上:秋田県潟上市の出戸浜海水浴場に並ぶ巨大風車。秋田県の海岸ではこんな光景があちこちで見られる。(さぞかし、日本海沿岸を飛んでいる渡り鳥たちが風車の羽根にはじき飛ばされていることでしょう。その実態把握はできていないでしょう。)
大量撤去や放置の懸念も
風力発電は大量撤去の動きも問題になっている。約20年とされる寿命を一斉に迎えはじめているからだ。高額な撤去費用がネックとなり、建て替え件数はわずかだ。撤去が相次いでいるという(中日新聞2019年12月23日)。太陽光発電も同様の状況で、そのパネルは鉛などの有害物質を含む。分解にも手間がかかるが、廃棄費用を積み立てていない事業者は全体の8割にのぼる。したがって、パネルが放置される懸念もある。~JAWAN通信139号・中山敏則氏~
写真上:秋田港の浅瀬で基礎工事が完了した洋上風力発電機。秋田港で13基、能代港で20基の洋上風力発電が建設中。
熱エネルギーなどの活用を
製鉄所の発電能力はすごい。日本製鉄の君津製鉄所だけで115万kwと、原発1基分に相当する発電量がある(週間東洋経済2012年6月9日号)。秋田県全体の風力発電導入量をはるかに上回る。しかし、法制度や送電線利用がネックとなっていて、製鉄所が生み出す電力を一般家庭などに供給するのはむずかしい。さらにごみ焼却場の発電能力も大きい。木更津市は今年2月、小中学校などの使用電力を廃棄物処理の余熱で発電する電力に切り替えた。船橋市も下水汚泥消化ガス発電事業を始めた。下水処理過程で発生する汚泥消化ガスをバイオマス発電の燃料として活用するものだ。産業界や全国各地の自治体はこのような取り組みを推進すべきである。そうすれば危険きわまりない原発は必要ない。自然や景観を破壊するメガソーラーや大型風力発電も必要ない。そのためには法制度の改正や送電線の開放も必要だ。~JAWAN通信139号・中山敏則氏~
JAWAN通信139号の中山敏則氏執筆記事を抜粋で掲載させていただきました。中山敏則様ありがとうございました。(写真:中山敏則氏 2022年4月17,18日撮影)
私たちは風力発電などの自然エネルギーに反対するものではありません。しかし、環境アセスの軽視や形骸化が見られる現状では、その影響評価が適正とは言えないものが多く、野鳥への影響回避・軽減策が実施される見通しもないため、計画の見直し、場合によっては白紙撤回を求めていくのは、野鳥をシンボルとする自然保護団体として当然だと思います。自然環境への影響を回避・軽減する策を実施できない事業計画は勇気ある撤退が必要です。繰り返し何度も言わせていただきますが、「野鳥も人も地球のなかま」です。
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