2022年12月、秋田能代港で20基が運転開始
地元保護団体が反対する中、野鳥への影響をないがしろにして
~一方、北九州市では~
陸上、海上、所かまわず風力発電事業が押し寄せている秋田県で、昨年2022年12月22日、国内初となる大規模商業用洋上風力発電が能代港で運転が開始された。防波堤の外側に並んだ風車は海底に基礎を固定する「着床式」で、1基当たりの出力は4200kw。この事業者は秋田市の秋田港にも13基の風車を設置しており、2023年1月中にも運転を始める予定。秋田県沖では国内最多の4海域が国による洋上風力発電の整備促進区域に指定されており、2030年にかけて約100基の洋上風車が稼働する予定。
2023年1月5日能代市落合地区にて撮影(提供:秋田県支部事務局 加藤様)
日本野鳥の会秋田県支部は、「(公財)日本野鳥の会」、「日本雁を保護する会」と連携して、数々の意見書提出と記者会見を行ってきたにもかかわらず、事業者は一応聴くだけの“柳に風”だったのでしょうか。パブリックコメント(市民からの意見)制度の形骸化とともに、事業者による環境アセス(環境影響評価)も自治体が誘致しているだけに、お決まりの「建設ありき」で、“鳥類への影響は小さく限定的”という形だけの影響評価だったことでしょう。アセス審査会委員も自治体の後押しによる事業だけに、事業者に対して厳しい意見は言いにくかったことが容易に想像できます。ただ中には海鳥への影響を懸念する、もしくは計画を見直すべきという意見を出した委員がおられたかもしれませんが。
<秋田県支部による意見書の要点>意見書より抜粋引用
当該海域はガン・ハクチョウ類をはじめとする、国内における主要な渡り・移動経路であり、ミサゴ、ハヤブサの重要な採餌海域である。さらにマガンが長距離移動の際、その飛翔高さが100mに至るまでに、3kmの距離が必要であるが、計画の風車を飛び越えるには距離が足りない。
また、その他影響を受ける鳥類として、国内でも有数の多くのカモ類、カモメ類、そして渡り鳥条約掲載種のオオミズナギドリ、希少種のアホウドリ、多くのシギ・チドリ類、ハヤブサの襲撃を避けながら海上を渡るヒヨドリなども影響が懸念される。
以上のことから、能代港における洋上風車建設は容認できない。事業を大幅に縮小するか、計画を中止すべきである。
※この事業に対する秋田県知事意見としては、「一層の環境影響への低減に努めること、適切な措置を講ずること。事後調査に基づきバードストライク発生状況を把握し、追加措置を講ずること。」と述べています。まさに型通りの知事意見です。運転開始後にバードストライクは必ず起きることは分かっており、海上ではその実態さえ把握できないことと、有効な防止策を実施する気のない事業者であることを承知の上での知事意見でしょうか。そこには県トップとしての野生生物への配慮は見えません。ある程度の犠牲は仕方ないと思っているのでしょうか。風力発電事業を誘致して、経済への好影響を期待する(決して悪いことではありませんが)地元の知事らしい意見です。本当に残念です。(北九州市も同じようなものです)
写真提供:同上
<一方、北九州市では>
北九州市においても、若松沖響灘で25基の洋上風力発電建設工事が始まりました。海上を飛び回る野鳥たちが風車の羽根に弾き飛ばされることを承知で、有効な防止策も示さないまま見切り発車するようです。少しは事業者の誠意に期待したのですが・・・。今思えば、当初から建設には反対し、市民運動として広げることが必要だったのかもしれませんが、それでも北九州市が誘致し、その後押しがある事業だけに、形骸化した環境アセス手続きは難なく進み、事業計画も進んだことでしょう。私たちは盛んに有効で実施可能なバードストライク防止策の採用を求めましたが、環境省さえ有効な防止策を示さず、事業者にもそれを求めない現状では、一事業者が実施することのハードルは高いようです。手間と費用をかけたくない事業者にとっては好都合かもしれませんが。
地球温暖化防止を目的に自然エネルギーの風力発電事業を促進することには理解しつつも、毎日どこかの風力発電施設で、風車の羽根に弾き飛ばされている野鳥がいることに心が痛むと同時に、保護団体としての無力さを感じずにはおれません。「野鳥も人も地球のなかま」といつも言っておきながらです。
私たちの今後の対応としては、未だ苦慮しているところですが、風力発電事業に対応を余儀なくされている野鳥の会各支部と情報共有を行いながら連携した活動も行い、「野鳥と風力発電問題連絡協議会」などの全国組織が必要かもしれません。経産省などからの圧力で、野鳥への対策がおろそかになっている環境省を動かすためにはです。
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