いぶり文芸 第6集

2011-09-02 10:36:28 | 本:ことば
昭和51年2月発行、152頁  表紙に「贈る 吉弘君 母より」とありました。

その中の92頁  <俳句>

桜散る 寺静かなり 一周忌

逮捕の灯 ゆれて卯月の 影おぼろ

おくつきに 椿残れり 一周忌


また、116ページ <短歌>
“みちのくの旅より”
   仙台市舟岡城址にて

胸をはり 天にとどけと そびえ立つ 舟岡城の 樅の木あわれ

さしみより 骨多からん この漁夫の 獲物なればと 庖丁をとぐ

ものすべて 静まりかえり そろばんの 音ひそめつつ 記帳しおわる

 いずれも、いぶり文芸に掲載された母の作品ですが、子ども心に残っていることを思い起しました。

  逮捕の灯 ゆれて卯月の 影おぼろ
   
 新婚早々に満州へ赴任したふたり。日本軍敗戦の色濃い情勢の中、乳飲み子の長男(昭和19年7月生まれ)を抱えて、一人で留守居する兵舎で送った夜の恐怖と不安の日々が伺われます。
敗戦、敗走・・捕虜・・脱走・・生還
戦争のことを語る言葉は、少なかった。中国で、戦災孤児にしなかった長男を守った父と母。頭を丸刈りにして男を装っていた。帰還する母のお腹で船で日本上陸。釜石へ帰ったのは21年6月。一元は、母の背中でぐったりしていた。私の誕生日は12月9日。

  影おぼろ
 一日も早く生還してきて欲しいと強く願う想い。父の生まれ変わりは、黒アゲハチョウと、我が家では言っています。葬儀の日、お盆の頃になると、私たちの周りに必ず、黒アゲハチョウが出現します!

  さしみより 骨多からん この漁夫の 獲物なればと 庖丁をとぐ

 釣りが大好きな父は、室蘭噴火湾にでかけていました。父が釣ってきた獲物をさばくのは母の役目でした。この日の釣果、小さな魚をめぐって二人のほのぼのとしたやり取りや楽しみの姿です。暇を見て母は、朝早くから汽車に乗って父と一緒に噴火湾の海辺へ出かけ、父が荒海の岩場で釣る勇姿を、お気に入りのカメラに収めて、ピクニック気分を楽しんでいたようでした。


  ものすべて 静まりかえり そろばんの 音ひそめつつ 記帳しおわる

 室蘭の鉄源社宅時代。育ち盛りの4人の子どもらが寝静まった夜に、その日の出来事をそろばん記帳する姿です。家計のそろばんも大変だったでしょうが、保険のおばさんの姿でしょう。私は野球、野球に明け暮れた中学・高校時代でしたから、毎晩夕食したらバタンキュウの熟睡でしたが、母は強し!ですねえ。深夜に縫い物をしたり、そろばんの音も、薄い明かりが灯っていました。

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