2020年11月、大阪都構想をめぐっての住民投票が行われました。
結果として、今回も反対票が上回り否決。松井市長は任期限りで勇退を決めたとのこと。
学生時代から社会人生活の十年ほど前まで、大阪府在住、そして大阪市民だった私。
もし、投票権があったらどうするか――やはり反対票を投じざるをえない。その理由は、いささか身勝手なものです。行政区を減らすことにより、図書館が消える可能性があるから。
大阪には優れた図書館があります。
大阪市には各区ごとに区立図書館、そして市立中央図書館。東大阪には府立図書館があります。また、各大学の付属図書館も充実していますし、私が研究論文を書いていたときには、とてもありがたかったです。私はこの府内の公立図書館に非常勤として勤務もしていたので、働きながら研究資料探しもでき一石二鳥でした。梅田に行けば大きな紀伊国屋書店がある。あのフロアの広さには圧倒されましたが、また中央図書館や府立図書館の巨大スペースにも感嘆いたしました。まあ、東京の国立国会図書館もすごいですけどね。
大阪市立図書館が凄いのは、OPACシステムが整備され、予約ですぐに貸出できる。しかも、区立図書館の本を他の区立のカードでも利用可能。
私の住んでいた市内は、二つの区立図書館が自転車で行ける距離にありました。
さらには、なんとかプラザという女性支援向けの公民館施設があって、そこも図書室があったわけです。ですので、下手すると各館で10冊ずつ、一週間でしめて30冊も借りることができました。拙ブログ歴の中で職に恵まれずに本ばかり読んでいた時期もありますので、ちょうどいい暇つぶしになりました。
図書館は、書店と違って売れない本が置いてある。そのとおりです。
大学図書館が買ってくれなかったハイデッガーの『芸術作品の根源』は、区立図書館経由で借りました。池田利代子や山岸涼子、手塚治虫などの名作漫画に逢えたのも図書館のおかげ。あのとき読んでおいたからこそ、今がある、という人生の指針になった本もあります。新聞が買えなかった私も、大学同期の親友も、図書館に通って新聞を読んでいました。ビジネス雑誌を知ったのも図書館。図書館の企画展示のためにポスターを描いたり、親友の油彩画を寄贈したり、その親友の制作した掲示板を据え付けたり、私の働いた区立図書館には想い出がいいっぱい。
しかし、大阪都構想実現により区が三区に改正されてしまうと、いまの区立図書館はどうなるのでしょう。当然ですが拝館にされるでしょうね。以前にとある図書館の古い蔵書が誤って廃棄されてしまったニュースがあったと記憶しますが、つぶれる図書館が増えたら路頭に迷う資料も多いはずです。価値もわからないまま、この世から消えてしまう本。もう永久に取り戻せない。
私の今の居住地もそうですが、図書館が身近にあることで、とても助かっています。
買えない本が読める。買いたい本を比較して選べる。いろんな思想を学ぶこともできる。士業の資格取得のとき、契約書について調査したいとき、お世話になりました。もちろん娯楽としても。私の近くの図書館は、大阪と違って人口が少ないので新刊本でもすぐに借りられます。
しかし、大阪のような人口が多い、しかも外国人労働者が増えている地域で、図書館がなくなるのは致命的です。
最近、子供向けの哲学本やビジネス指南本も多く出版されてしますが、豊かな家庭の子でないと買えません。食べるので精いっぱいな家に生まれたのは、子ども本人のせいでもないし、いまの親世代はいくら努力しても手取りがあがりません。そして、ネット上のニュースだけが万全とはいえません。お子さんに絵本すら買えないご家庭だってあります。大阪区立図書館の絵本はぼろぼろです。その絵本でこれまでどれだけのお子さんが育ったのでしょうか。感無量です。
図書館は誰にも開かれた知の泉です。
貧しくても知に触れる機会を奪うのは愚策です。
橋本徹元大阪府知事が構想した大阪都構想が、実現するのかどうかは不明です。
ただ、これを否定されたからといいまして、それを唱える政治家が否定されたとは言い難いでしょう。橋本氏が撒いた地方再生活性化の機運は、全国の知事会につながり、各県の首長が中央政府に物申しやすくなりました。現首相が主導したとされるふるさと納税制度についても、その下地をつくったのは、大阪維新を始めたとした地方政党の台頭にあったはずです。ですので、都構想など目玉政策が否定されたからではなく、いまの現知事、現市長の治世に満足であるならば、政権をつづけていただきたいとも思います。まあ、私はいま部外者ですけどね。
会社での経費削減やリストラ策もそうですが。
実際に犠牲になっているのは、「これから」恩恵を受けたはずの世代。これまで終身雇用が保証され、年金も確保できた逃げ切り世代は負担をわかちあおうとしない。なにかを削るなら、その分の雇用や需要を生み出さないと、要るものをどんどん削るだけで行政サービスがやせ細ります。
若い世代に反対が多いのは、これから受けられるはずの公的支援を奪われるからです。
読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。