陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「裏窓」

2020-10-26 | 映画───サスペンス・ホラー

サスペンスものが怖気だつほど嫌いだった私を、サスペンス好きにしてくれたのが、ミステリーの神様アルフレッド・ヒッチコックでした。彼の作品にはエスプリが利いていて、英国紳士らしいユーモアがあります。

1954年の映画「裏窓」(原題:Rear Window )は、そんなヒッチコックの傑作サスペンス。地味なタイトルですが、動画やSNSツイートなどで一挙に私生活が暴かれる現代社会に警笛を鳴らすような、社会の闇をえぐりだした魁作です。

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仕事中に足を骨折したカメラマン、ジェフこと L. B. ジェフリーズは、ギプスを嵌めて車椅子生活。暇を持て余した彼の日課は、向かいのアパートの住人たちのプライバシーを覗き見することでした。

ある日、ジェフは病身の妻と暮らす初老の男の行動に不審を抱きます。
男が妻を殺害したのではないかという推理を語って聞かせるジェフに、恋人のリサも看護人のステラもとうしょは半信半疑。望遠レンズを構えて常に向かいを監視しはじめたジェフの妄想はエスカレート。友人のドイル刑事にも相談しましたが、取り合ってくれません。
呆れていたリサとステラですが、ジェフの言い分を信じ込むようになって、私立探偵さながらの活躍をしてくれます。

ここでは、動けないジェフは安楽椅子探偵といったところでしょうか。
前半はけだるい男女の台詞のやりとりが続くのですが、終盤のあわやという展開で一気に緊張感が増します。犯罪現場を目撃してはいないのに、状況証拠だけを拾い集めて追いつめていくというのは、冤罪にも繋がるのでけっして褒められたものではありませんが。

落ち着きのないカメラマン人生を愛するジェフと、華やかな暮らしを好むお嬢さま然としたリサは将来をめぐってさざなみが立ちかけるのですが、この一件に荷担することでリサが思いもよらない活動的な面をみせ、愛情が深まっていく過程もラブストーリーとしては素敵です。女性の勘がどんな名推理よりも優れていることがあるものなんですね。

中盤で向かいの犬好きの婦人が叫ぶ台詞──「これが隣人だというの。隣人というのはお互いの生き死にまで気にするものよ」は、あの場面ではなんとも絶妙でした。現在の無縁社会を見透かしていたかのような言葉ですね。だって、いまは家族が離れ部屋で亡くなっていたとしても、高熱の車内に幼児を残していても、子どもが不審者に連れていかれても、誰も気にしないような無関心社会ですものね。電車内で倒れる人がいても、みんなスマホを覗いています、そんな世の中怖くないですか。でも、田舎のおせっかいもどうなのかと、ふと考えてしまいます。

主演は「めまい」「素晴らしき哉、人生!」のジェームズ・スチュアートとグレース・ケリー。
原作はコーネル・ウールリッチの短編小説。

サスペンスですが、グロテスクなシーンはないので初級者にお勧め。
それにしてもヒッチコック作品は、女性に厭味がないのがいいですね。さて、本作ではヒッチコック監督はどこに登場したでしょうか? ヒントはピアノですよ。

(2011年3月1日視聴)

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