ベトナム戦争従軍の実体験を元にした「プラトーン」で絶大な発言権を得たオリヴァー・ストーン監督が、ふたたびこの戦争を題材として世に問うたのが1989年の「7月4日に生まれて」(原題 : Born on the Forth of July)
1946年7月4日、合衆国独立記念日。ロングアイランド州のマサピークアに生まれたロン・コーヴィックは、カソリック教徒の両親や大家族、友人に恵まれた少年時代を過ごす。
1960年代後半、高校生になったロンは憧れの海兵隊に志願。ベトナムに派遣され軍曹に昇格するが、指揮を誤ってベトナムの民間人を大量虐殺してしまう。さらに戦場の混乱にあって錯乱状態になったロンの銃撃で、同胞が命を落とす。やがて、ロンも戦場で重傷を負い帰還するが、彼を迎えたのは祖国の冷淡な変貌ぶりだった…。
戦場での同士討ちなどの手落ちの隠蔽などは「プラトーン」でも描かれていましたが、主人公が戦わねばならないのは、戦地の現状を知らずにいる合衆国国民。
下半身麻痺で不能のロンは病院に収容されます。ベトナム戦病兵に対し国からの予算カットを理由に病院の対応はずさん極まりなく、じゅうぶんなケアも受けられません。
帰郷すれば、反戦運動の嵐に遭い、うわべだけの英雄扱い。人びとは遠くの戦争よりも近くの金儲けに必死、不具になった息子に家族は憐憫の視線。
やり場のない怒りを晴らしようのないロンは、70年代前半、メキシコに渡り自堕落な生活に陥ってしまいます。
入院中のシーンがかなりスカトロジックなのと、メキシコ滞在時代のデカダンスな描写が強烈──「明日に向かって撃て!」の二人組みたいに、時代遅れの理想にしがみついたために祖国を終われてしまう情けない男のようにみえてしかたがない──で、あまり好きにはなれない作品でした。最後もいきなり主人公に都合のいいように展開し、むりやりハッピーエンドに向かっているように思われただけ。
しかし、DVD特典映像をみれば、主人公が実在のベトナム帰還兵と知り、また彼がインタヴューアーに答えている真摯な態度から、彼が戦争によってだけでなく、祖国のてのひらを返したような感情に人生を狂わされた悲哀がよく伝わってきます。どうやって人生を諦めないで這い上がってきたか、誰かに励まされたか、そういう部分にエピソードをもっと割いてくれてもよかったように感じます。これでもかとばかりに苦しかった時期の描写が長々しすぎて、痛々しい作品という印象が拭えませんでした。
合衆国記念日に生まれたひとりの青年の不遇な人生になぞらえられているのは、まさに世論に踊らされて多くの若者を戦場で無駄死にさせた米国の狂った状態そのもの。タイトルはおそらくそういう意味なのでしょう。
主演は、あのトム・クルーズ。
軟派な印象がついて回る彼が、社会派ドラマに挑戦。理想に燃える好青年から、1960、70年代の頽廃的な空気に溺れた青年、そして自信を取り戻すまでを熱演しています。
共演は「プラトーン」でも鮮やかな存在感を残したウィレム・デフォー。
原作はロン・コーヴィックの同名小説。
1989年のアカデミー賞で監督賞・編集賞を受賞。
(2010年7月2日)
7月4日に生まれて(1989) - goo 映画
7月4日に生まれて [DVD] | |
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1946年7月4日、合衆国独立記念日。ロングアイランド州のマサピークアに生まれたロン・コーヴィックは、カソリック教徒の両親や大家族、友人に恵まれた少年時代を過ごす。
1960年代後半、高校生になったロンは憧れの海兵隊に志願。ベトナムに派遣され軍曹に昇格するが、指揮を誤ってベトナムの民間人を大量虐殺してしまう。さらに戦場の混乱にあって錯乱状態になったロンの銃撃で、同胞が命を落とす。やがて、ロンも戦場で重傷を負い帰還するが、彼を迎えたのは祖国の冷淡な変貌ぶりだった…。
戦場での同士討ちなどの手落ちの隠蔽などは「プラトーン」でも描かれていましたが、主人公が戦わねばならないのは、戦地の現状を知らずにいる合衆国国民。
下半身麻痺で不能のロンは病院に収容されます。ベトナム戦病兵に対し国からの予算カットを理由に病院の対応はずさん極まりなく、じゅうぶんなケアも受けられません。
帰郷すれば、反戦運動の嵐に遭い、うわべだけの英雄扱い。人びとは遠くの戦争よりも近くの金儲けに必死、不具になった息子に家族は憐憫の視線。
やり場のない怒りを晴らしようのないロンは、70年代前半、メキシコに渡り自堕落な生活に陥ってしまいます。
入院中のシーンがかなりスカトロジックなのと、メキシコ滞在時代のデカダンスな描写が強烈──「明日に向かって撃て!」の二人組みたいに、時代遅れの理想にしがみついたために祖国を終われてしまう情けない男のようにみえてしかたがない──で、あまり好きにはなれない作品でした。最後もいきなり主人公に都合のいいように展開し、むりやりハッピーエンドに向かっているように思われただけ。
しかし、DVD特典映像をみれば、主人公が実在のベトナム帰還兵と知り、また彼がインタヴューアーに答えている真摯な態度から、彼が戦争によってだけでなく、祖国のてのひらを返したような感情に人生を狂わされた悲哀がよく伝わってきます。どうやって人生を諦めないで這い上がってきたか、誰かに励まされたか、そういう部分にエピソードをもっと割いてくれてもよかったように感じます。これでもかとばかりに苦しかった時期の描写が長々しすぎて、痛々しい作品という印象が拭えませんでした。
合衆国記念日に生まれたひとりの青年の不遇な人生になぞらえられているのは、まさに世論に踊らされて多くの若者を戦場で無駄死にさせた米国の狂った状態そのもの。タイトルはおそらくそういう意味なのでしょう。
主演は、あのトム・クルーズ。
軟派な印象がついて回る彼が、社会派ドラマに挑戦。理想に燃える好青年から、1960、70年代の頽廃的な空気に溺れた青年、そして自信を取り戻すまでを熱演しています。
共演は「プラトーン」でも鮮やかな存在感を残したウィレム・デフォー。
原作はロン・コーヴィックの同名小説。
1989年のアカデミー賞で監督賞・編集賞を受賞。
(2010年7月2日)
7月4日に生まれて(1989) - goo 映画