馴染みの近所の公立図書館には、週イチで通っています。
その図書館に、最近、残念な張り紙がありました。所蔵本の盗難や紛失が増えているので、貸出前の本は館内据え置きのカゴに入れて持ち歩いてくださいとのこと。
大学図書館や、県立規模の図書館、人口の多い地域の図書館には、盗難防止システムがあります。所蔵本にあるバーコードを貸出システムに通さなかったままの本を持ち出そうとすると、ブザーがある、あの仕掛けです。私がかつてつとめていた関西の図書館にもあって、一度鳴ったことがあります。残念ながら、売り物ではないとはいえ、図書館の本の盗難は窃盗罪にあたります。税金泥棒ですし、公共財ですので。
そういえば、どこかの温泉旅館かホテルにあった人気漫画『鬼滅の刃』コミックスも盗まれたとかで大騒ぎになり、そののち、全国から有志が寄付してくれたという、こころ温まるニュースがありましたよね。
かつて、私の勤め先だった図書館も都心部にあったがため、利用者は多く、そして延滞者も多かったものです。予約本および延滞者への返却督促の電話をかけるのは、私の仕事でした。返さない人のなかには、火事でうしなったとか、すでに引っ越してしまい所在不明の人もいたりしました。
本を盗むひとのなかには、ご年配の方も多く、認知症が疑われるケースもあるかもしれません。
図書館には市場では入手不可能な希少本もあり、また装丁が豪華な本もあるし、本好きマニアならば手元に置いておきたいと欲が出てしまうのでしょう。
また金銭目当てで古本屋に売りさばくよからぬ者もいるかもしれませんが、図書館の所蔵本にはバーコードがついており、天地に館名や日付印を押したりもしているので、かならずアシがついてしまうのではないかと察せられます。
自分が欲しい、読み続けたいと思う本は、誰かにとってもいい本であるのです。
本が買えないから借りている向学心あふれる子の誰かが、将来、世の中を変えたり、住みやすくしてくれたりするかもしれない。そう思えば、自分だけのものとして囲い込むのは、自分のためにもならないのです。
私もついつい何度も同じ本を借りなおしてしまい、司書さんにまた借りるの? といった顔をされてしまうことがあります。雨の日に返却しにいったら、かばんのなかでふやけてしまって弁償を申し出しましたが、迷惑顔で断わられてしまったことがあります。その本はいま開架状態になっていないので、廃棄されたか、書庫入りになったのかもしれません。
借りた本を大切に、きれいに読むのは、利用者のマナーです。
ただ、図書館で働いた身からすると、返却ポストに投げ込んだりもし、複数の手垢がついてしまう図書館の本はどうしても傷みやすく、だからこそ乱雑に扱ってしまいがちです。とくに人気のベストセラー本、絵本、漫画はかなり消耗が激しいですよね。
借り手の多そうな本は、電子書籍での貸出利用が進めば、盗難事件は減るのではないかなと思うのですが、そうなるとますます本の購買価値が下がってしまうので二の足を踏まれているのが実情なのかもしれませんね。
読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。