今年(2020年)の10月ごろ、ツイッター上でトレンド入りしたらしい話題の「同人女の感情」をいまさらながら、さくっと読んでみました。➡同人女の感情(私のジャンルに「神」がいます)
とある神呼ばわりされる人気の字書きさんをめぐる群像劇のオムニバスドラマ。この字書きさん自体は主人公ではなく、ある意味、狂言回し的な役どころです。
この字書きに憧れて二次創作に足を踏み入れ努力するひと、嫉妬に悶え狂ったり、その字書きと仲良くするひとにまで嫉妬したりする者、などなど。登場人物はすべて女性です。
個人的に好きな話は、O件ジャンルに挑戦する字書きさんの回。
爆発的な人気をかこつジャンルの同原作者の前身作に感動した女性が、その作品の良さを伝えようと孤軍奮闘し、反響のなさに凹むものの、理解ある友人の助言も得て立ち直る話です。
あと、私は人混みが嫌いなので、いまのコミケだとかイベントとか出かけたことはないのですが。
過疎ジャンルの二次創作者が、巨大ジャンルのブースが間近にあるときの絶望感みたいなのがよくわかったのは、やはりヴィジュアルで読ませる漫画ならではだと思いました。こういうイベントって、百貨店の催事場の売り子みたいに、呼び込みかけてセールしたらいけないんですね。ひたすら、客を待つって苦行じゃないですか。ミュージアムの監視員みたいなものか。
この漫画、二次創作経験者がよく書きがちなSNSへの不平不満とか、同人誌仲間での利益分配のイザコザとか、コミケ主催に関するあれやこれやとか、そういうどす黒いものがありありと描かれているんだろうなあと予想したものの。意外にちょっと心をくすぐるシーンもありまして、なかなかよかったです。二次創作のつくり方めいたハウトゥものとしてもいいのかも。ただし、これは字書き用ですけどね。
でも、女性の二次創作者で、相手をストーカーのようにネット上で検索したり(ネット上のログを漁ったり、交友関係をすべって洗ったりって、もはや警察の捜査みたい…!)、親の仇かのように追い詰めるべく怖い顔して創作に励むものなのかな…とも感じてみたり。各回の主人公が被害者面ではなく、自己の内面を自虐的にあけすけに語りあかす手法が受けているのかもしれませんね。
これ、同性同士のお話ではあるのですが、ユニセックスなHNだけど、少女漫画っぽい作風だけど、じつは男性だったりする二次創作者についてどう思うのかとか。同性の創作者に対する好意は、ある意味、自分が同じに並びたいという同化現象ではないでしょうか。同人界隈にありがちな女性的な優しさといびつさを、なんとなく垣間見たような。
同人女のやつ買って描きおろし読んだけど同人女感情というより「周りの人間が勝手に救われたり狂ったりしていくカリスマが故に孤独に陥りかねない人間の傍らにいる、周りから見たらカリスマに相応しくない平凡な人間がカリスマにとって替えがたい救いであり光であるという構図の百合」に満足です
— とりがら (@trgr_) November 13, 2020
以前の二次創作論記事で書きましたが、二次創作はやってる人はほとんど素人でしょうから、あまりその作家性というか個人の人格にこだわらずに、その作品だけさっさと慈しんでいたほうが楽だと思うのですが…。イベントで実物にご面会してしまうと情が移ってしまうのかもしれませんね。私は芸術作品研究をしていたので、傑作の創造主=神と崇めるべきお方とまでは、さすがに思わないです。大げさに好意をふりまくのは社交辞令でしょうけれど、まあ、でも若いうちはそうなのではないでしょうか。自分の感情をうまく言い当てた作品に出会うと、こころをそっくり預けたくなるというか、聖書みたいにありがたがるといいましょうか。
紅白歌合戦に出る大物歌手より、地元で触れ会えるご当地アイドルを応援したいみたいな理屈だと思います。SNS時代で双方向コミュニ―ケーションが重視されるので、なおさらそうなのでしょう。
このピクシブ漫画は、SNS上でバズったのを契機として、改題されて書籍化されるようです。
ピクシブにあがっていたのが12話ほどで少なかったけれど。単行本には描き下ろしがあるみたいですね。天才字書きを支えたファンの中島さんの話みたいです。
お知らせです。同人女の感情が単行本になります!書名は『私のジャンルに「神」がいます』発売日は2020年11月12日です。書店に本が並ぶと思うと…めちゃくちゃうれしいです!!!!いつも読んでくださっている皆様のおかげです。本当にありがとうございます…!最高の一冊を目指して頑張ります! pic.twitter.com/PoM4iVbCBk
— 真田 (@sanada_jp) October 3, 2020
個人的に、二次創作に限らず、プロの創作者さんもふくめ、あまり自作語りをするのを好まないのですが、本作がウケた背景には、この漫画をきっかけとして、二次創作クラスタの皆さんが自身の創作活動をふりかえって喧々囂々と論を戦わせた流れがあったようです。
二次創作は自分にとっての宝物であればそれでいいに全面同意です。
これは文句なしに皆さんが思っていることでしょう。そうでなければ、趣味とはいえ、見返りのないこんなめんどうくさいことを長くやってはいませんし。後からハマるひとのために、個人サイトやブログを消去しなかったり、細々と同人誌の刊行を続けたりという姿勢にも共感を覚えます。
しかし、ツイッターってときどき妙なものが流行りますよね。まあ、暇つぶしにはちょうどいいですけど、余計な感情を混ぜまわされやすい場所ではあるなとは感じます。
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— ねとらぼ (@itm_nlab) November 14, 2020
同人女の感情に関連する7件のまとめ
ツイッターの話題になったつぶやきをまとめて読めるの、便利ですよね。わりとプロの漫画家さんも反応していて、二次創作を公式扱いして持ち上げる空気は苦手なようです。まあそうですよね。商業作家さんも大変だ…。
【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。