読書家と呼ばれる人の中には、自己啓発本を好んで読む人がいます。
私もどちらかというとそうでした。学生時代はビジネス関係の本など見向きもしなかったけれど、会社員、とくに正社員に採用されたときから読むようになっています。
ところで、ひとくちに自己啓発本と言ってもさまざま。
最近は名うての経営者がそのネームバリューをいいことに、やたらと本を出しまくっています。私は経営者が会社の現場を見ずに、作家ごっこなどをしだしたら、もう会社が危ういのではないかと思ったりもします。もちろん、松下幸之助のように、すぐれたビジネス哲学を世に広めた経営者もいないではないですが…。
ある知人は自称勉強好き。
ホリエモンこと堀江貴文氏の著作が好きで、勤務時間中もこれみよがしに読みふけっていました。自己啓発本の話で盛り上がり、著名なスマイルズの『自助論』はどうですかとたずねたら、つれない返事。彼女が好きなのは、派手に功成り遂げた有名経営者や、ネット上のうさんくさいセミナー講座を開いているようなユーチューバーなどの動画。
ホリエモン氏の本には、「バカとは付き合うな、時間の無駄」と書かれてあることを絶賛。
ところが、そのご本人自身が、無駄話が好きで、会話は自分のことばかり。お喋り好きなので明るい人なのですが、話をいつも自分のいい方向へ持っていこうとするので、みんなが閉口してしまいます。仕事は楽なほうがいい、専業主婦で扶養されたい、けれど旦那は大嫌い。自分は才能があるのに、見合った職場がみつからないなどなど。皆さん、どう思われますか?
私はある時期から、著名人の本にはあくまで自己正当化し、他者を攻撃する意図が感じられる売れ本は避けてとおるようになりました。その著者の悪意を浴びて、自分の認知が歪んでしまうからです。ストレスのたまったときに読むと、怒りが増幅されて、かえってメンタルをやられます。
ホリエモン本が大好きなその人は、はっきりいいって、任せられた仕事すらまともに指示をまもっていませんでした。調子のいいことを言い、手を抜くのでこちらの負担が増えるばかり。同じ雇われ人なのに、自分が現場を差配しているようなつもりになって、他人の能力のよしあしを見積もっています。みんなと仲良くさえなれば、ノリが良ければ、その仕事の目的はどうでもいいという。しかも、失業手当の受給を繰り返し、ずっと長い職場にいる人を社畜として見下していました。
こういう人の末路がどうなるか、おわかりですか?
ある年齢がきたら、雇われる場所がなくなります。それこそ、自分がバカにしていた仕事にすら、ありつけなくなります。安い給料であくせく働く人からも、世の中に何も貢献していないとして、避けられます。税金も滞納し、一発逆転を狙った金融投資に手を出して失敗し、あげく組織の一員として懸命に働いているひとまで自分のレベルに引きずり落そうとします。他人が自分より成長したり、高い報酬を得ることを望まないのです。お前はこの程度のレベルの仕事でいいよ、と勝手に押しつけられた時は腹が立ちました。
自己啓発本や意識高い系のビジネス本は読まないでいいわけではありません。
しかし、とくに社会人経験が浅い人は、なるべく仕事の基本を学ぶような初心本を読むべきです。ナポレオン・ヒルなどの分厚い本が本棚にありながら、ツイッターで職場の愚痴をグダグダこぼしている人を見ると、一体その本のどこを読んで理解してるのかと言いたくもなります。こうした自己啓発本は要するに、メンタルの弱そうな人をターゲットにして、売り込んでいるだけなのです。いわゆる不安商法ですね。
本を読むのは、他人より偉くなったり、賢くなったりするためだけではありません。
自己啓発本や名うての経営者の本ばかり読んで自分が仕事ができるつもりになっている人のほとんどは、仕事ができていない。文字を追って賢こぶる時間があるくらいなら、目の前の業務をどうしたら効率よく進めるかを考えたほうがいいのです。他人のきれいな言葉を借りるよりも、自分の悪い箇所や失敗歴を見つめなおした方がいいのです。
この文面は、働く意欲が萎えがちで、いつも奢りがちな自分への戒めとするために書き残しておくことにしたものです。
読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。