03年公開のフランス映画「かげろう」は、戦時下での年の差恋愛を描いた、とひと言では片づけられないようなふしぎな作品。アマゾンのレヴューでは評価は概ね高いのですが、あまり良さがわからなかった。
DVDの表紙やコピー文から窺えるようなエロスはなく、どちらかといえばプラトニックな恋愛。
以下、ネタバレあり。
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1940年のドイツ軍の侵攻するパリ。都市を離れ南下する避難民に敵国の銃撃が襲いかかる。
未亡人のオディールは二人の子どもを連れて戦火を逃れるなかで、ふしぎな青年イヴァンに窮地を救われた。イヴァンは安全な森の奥地に親子を誘い、空き家となった他人の屋敷にかってに乗り込む。
気後れのするオディールだったが、生きる術に長けたイヴァンに頼らざるをえなくなって、しぶしぶ、奇妙な同居生活がはじまる。
父親のいない暮らしで二人の子どもを抱えて肩肘を張るストイックな母親と、荒削りな恋心を寄せていく十七歳の若者。暮らしを共にするうちに、オディールはいつしかこのかりそめの宿を、戦乱渦まく現実からの逃避と考え、離れがたくなっていく。イヴァンはオディールに求婚し、夫がわりさえ務めようとする。
屋敷にやってきた訪問者から戦争の終焉が近いことを告げられても、オディールはこの楽園の生活から抜けだす意思をみせない。
しかし、ある日を境に、ふたりの愛情は終わりを迎えてしまう。
最後がかなりあっけない幕切れで、驚き。オディールと同様、正体のわからなかったイヴァンもじつは現実からの逃亡者だった。つかのま寄り添いあったと思えば、急に現実に引きずり戻される。物語は小川のせせらぎのように静かに流れていくのですが、残酷なラストとともいえようか。
主演はあの「美しき諍い女」で美しい肢体をみせたエマニエル・べアール。この映画では厳格な母から、ひとりの男に恋する女への変貌を、じっくりと描く。イヴァン役のギャスパー・ウリエルは、「ジェヴォーダンの獣」でデヴューした新星で、この映画で注目を集めた。タフな野放図で親子をぐいぐい引っ張っていく強引さはあるが、どこか精神的な脆さがこぼれる十七歳を好演。
オディールの長男を演じたグレゴワール・ルプランス・ランゲのオペラ独唱の披露の場面、部屋にさりげなく飾られたワシリー・カンディンスキーの抽象絵画など、芸術性が感じられる映画。
ストーリーに大きな起伏はない分、情緒を汲み取っていくタイプなのかと思わされる。
監督はアンドレ・テシネ。
(〇九年六月四日)
かげろう(2003) - goo 映画