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少し前のことだが、あるアパレルメーカーの経営者夫人に、「あなたの母校、〇〇大学になってないの?」と尋ねられ、ぎょっとしたことがある。そのご夫人は〇〇大学の理系出身、ご主人は有名私大。地元の中小企業だが、最近は、高学歴の新卒者を採用していて、ホームページに顔出しさせている。企業ブランドを高めるためなのだろう。たしかに、私はしがない二流国立大学出身です。ごめんなさい。
大学の経営統合は、私が在学中にも噂になっていた。
けっきょく学部は改編され、実用的なコースが増えたが、いまだに大学名は残っている。私の母校の小学校、中学校、および高等学校はいずれも、そこそこ歴史があって市街地中心部にあるので、いまのところ廃校の予定はないだろう。大学については第一希望ではなかったので愛着があるわけでもないが、しかし、母校の大学が消えてしまうというのは淋しい気がする。たとえ、上位の大学に合併吸収され、その名前が冠されたのだとしても。90年代を席巻した国民的人気アニメ『美少女戦士セーラームーン』の原作漫画家・武内直子先生は私立の薬学部ご出身だが、この大学ですらいまは関東の有名私大にとりこまれている。名が変わったからといって想い出が消えるわけではないが、青春時代の一部を過ごした場所の変節はやはりこころ穏やかでいられないものがある。
2018年4月26日の読売新聞朝刊では、名古屋大学と岐阜大学とが法人統合へ協議との記事があった。
大学同士の連携や統合を促す制度改革は、文部科学省が推し進めている。背景には、2018年からはじまる18歳人口の減少化傾向がある。文科省としては、大学を減らせば、国立大への運営交付金が少なくて済むので願ったりかなったりということだろう。財務省の肝いりで予算削減のために、教員数を減らそうと躍起になっており、全国の教員養成学部も改編されつつある。
大学再編の仕組みとしては、三種類あるという。
「1法人複数大学方式」は、既存の各国立大学の学部、キャンパスは残したまま、複数の国立大学を傘下におさめる新国立大学法人を設立する。名大と岐阜大のように、自学の独立性を重んじたいなら、これに乗るだろう。さらには、国公私立大学すべてをグループ化するという案もある。これは地元のネットワークを活かしたともいえるが、学生が他学の授業を受けたり、施設を利用できたりもする。私大どうしが、一部の学部のみ譲渡できるという案もある。こうなってくると、企業の買収や不採算事業の切り売りと変わらない。
日本の私大・短大の実に16パーセントは経営困難に陥っている。
専門学校でもよくあるが、拡大路線を続けたあげく行き詰まって、文科省から解散命令を受けるケース。かつて田中真紀子議員が日本の大学の認可を問題視して叩かれたが、私立大学の補助金目当ての乱立はいまだ止むことがない。
経営難の私立大学を地元自治体が公立化し、黒字化するとともに、授業料が低額になったので志願者が増え、地元から若者の流出に抑止効果があったという報告もある。しかし、おなじく経営にあえぐ私大からは、みずから経営再建を放棄して安易に公金に頼ることの是非も問われている。政治的に中立であるべき教育機関が、官と癒着しすぎる恐れもあるだろう。先ごろ、関係者が不起訴により終結を見たとされる森友学園問題にしても、首相との虚偽の面会報告で世間をさんざん引っ掻き回した加計学園にしても、なんとなくしこりが残る幕引きである。とはいえ、これ以上、この問題ばかり追求する野党のふるまいにも、国民がうんざりしているところだったのだが。
どこの会社の経営破綻でも同じだが、割りを食うのは、学生や教職員である。
教員は非常勤講師ばかりで、いよいよ雲行きが怪しくなると、給与未払いになる。学生はせっかく入学した学部がなくなってしまい、転学しても希望に沿わない学科に在籍せざるをえなくなる。転学先と二重に学費支払いが発生したり、通学に時間がかかったり交通費がかさんで、学業に支障をきたす事例もある。
大学の統廃合はいよいよ加速するに違いないが、他大学と協同できるほどの資産や魅力的な施設や人材の有無が分かれ目になるであろう。数年前に、博士号のワーキングプア問題が持ち上がったが、もはや彼らの雇い先自体がなくなろうとしている。しかし、その問題は、いまにはじまった問題ではないのである。日本大学の常任理事と副学長をしているアメフト部の監督とコーチが卑劣な指示をして、相手方チーム選手を傷害させた事件からしても、日本の高等教育の信頼性をなくす事態である。優秀な技術をもった研究者が、海外の大学に流れてしまうのも、もはや時間の問題かもしれない…。
大学の経営統合は、私が在学中にも噂になっていた。
けっきょく学部は改編され、実用的なコースが増えたが、いまだに大学名は残っている。私の母校の小学校、中学校、および高等学校はいずれも、そこそこ歴史があって市街地中心部にあるので、いまのところ廃校の予定はないだろう。大学については第一希望ではなかったので愛着があるわけでもないが、しかし、母校の大学が消えてしまうというのは淋しい気がする。たとえ、上位の大学に合併吸収され、その名前が冠されたのだとしても。90年代を席巻した国民的人気アニメ『美少女戦士セーラームーン』の原作漫画家・武内直子先生は私立の薬学部ご出身だが、この大学ですらいまは関東の有名私大にとりこまれている。名が変わったからといって想い出が消えるわけではないが、青春時代の一部を過ごした場所の変節はやはりこころ穏やかでいられないものがある。
2018年4月26日の読売新聞朝刊では、名古屋大学と岐阜大学とが法人統合へ協議との記事があった。
大学同士の連携や統合を促す制度改革は、文部科学省が推し進めている。背景には、2018年からはじまる18歳人口の減少化傾向がある。文科省としては、大学を減らせば、国立大への運営交付金が少なくて済むので願ったりかなったりということだろう。財務省の肝いりで予算削減のために、教員数を減らそうと躍起になっており、全国の教員養成学部も改編されつつある。
大学再編の仕組みとしては、三種類あるという。
「1法人複数大学方式」は、既存の各国立大学の学部、キャンパスは残したまま、複数の国立大学を傘下におさめる新国立大学法人を設立する。名大と岐阜大のように、自学の独立性を重んじたいなら、これに乗るだろう。さらには、国公私立大学すべてをグループ化するという案もある。これは地元のネットワークを活かしたともいえるが、学生が他学の授業を受けたり、施設を利用できたりもする。私大どうしが、一部の学部のみ譲渡できるという案もある。こうなってくると、企業の買収や不採算事業の切り売りと変わらない。
日本の私大・短大の実に16パーセントは経営困難に陥っている。
専門学校でもよくあるが、拡大路線を続けたあげく行き詰まって、文科省から解散命令を受けるケース。かつて田中真紀子議員が日本の大学の認可を問題視して叩かれたが、私立大学の補助金目当ての乱立はいまだ止むことがない。
経営難の私立大学を地元自治体が公立化し、黒字化するとともに、授業料が低額になったので志願者が増え、地元から若者の流出に抑止効果があったという報告もある。しかし、おなじく経営にあえぐ私大からは、みずから経営再建を放棄して安易に公金に頼ることの是非も問われている。政治的に中立であるべき教育機関が、官と癒着しすぎる恐れもあるだろう。先ごろ、関係者が不起訴により終結を見たとされる森友学園問題にしても、首相との虚偽の面会報告で世間をさんざん引っ掻き回した加計学園にしても、なんとなくしこりが残る幕引きである。とはいえ、これ以上、この問題ばかり追求する野党のふるまいにも、国民がうんざりしているところだったのだが。
どこの会社の経営破綻でも同じだが、割りを食うのは、学生や教職員である。
教員は非常勤講師ばかりで、いよいよ雲行きが怪しくなると、給与未払いになる。学生はせっかく入学した学部がなくなってしまい、転学しても希望に沿わない学科に在籍せざるをえなくなる。転学先と二重に学費支払いが発生したり、通学に時間がかかったり交通費がかさんで、学業に支障をきたす事例もある。
大学の統廃合はいよいよ加速するに違いないが、他大学と協同できるほどの資産や魅力的な施設や人材の有無が分かれ目になるであろう。数年前に、博士号のワーキングプア問題が持ち上がったが、もはや彼らの雇い先自体がなくなろうとしている。しかし、その問題は、いまにはじまった問題ではないのである。日本大学の常任理事と副学長をしているアメフト部の監督とコーチが卑劣な指示をして、相手方チーム選手を傷害させた事件からしても、日本の高等教育の信頼性をなくす事態である。優秀な技術をもった研究者が、海外の大学に流れてしまうのも、もはや時間の問題かもしれない…。