2024年の秋、世間を震撼させた闇バイトによる強盗殺人事件。
若者たちが主に単身の高齢者世帯を襲う、その背景にあるのは、反社会的組織の影と、インターネット上での高額収入をうたう求人詐欺、そして若者に広がる貧困や世代間格差への怒りなのでしょう。犯罪に加担してしまう人は家族とも打ち解けて話し合えず、孤立していることも多いもの。もし、楽に稼げる仕事なんてないのだよ、と苦言を呈してくれる、身近な理解者がいれば結果は違っていたのではないでしょうか。警察や行政は信用できない!とするウェブ上の世論も、国民同士を分断し、困った人の相談先を塞いでいるように感じられます。
ウェブ上には社会への憎悪が満ち溢れています。
私も最近は読み込み過ぎるとメンタルが悪化するので、攻撃な切り口のニュースサイトやSNSなどは控えるようにしています。かつて勤め先でのPCにはトップページ表示されるニュースサイトに欲望や不安をあおる見出しや、ポップアップされる広告がいっぱいで、こころがザワザワしていました。
一時期、心身の不調で文字が読み書きできなかった症状も収まり、また復活できたのが図書館通い。
私は常連さんの部類なのか、図書館職員さんにご挨拶を交わすこともあります。
図書館マニアになったのは遅くて、大学生時代。
大学の先輩の紹介でとある公立図書館の非常勤職員職を得て、働きはじめてからでした。NDCで分類された書架は、ジャンルごとに本が集まっています。時間があればあちこちの本棚を総なめして目ぼしい本をチェックするのが、ひそかな楽しみだったりもします。
独り暮らしだった20代も、自分のキャリアについて悩んだ30代も、兼業の職を得たけども七転び八起きの40代も、つねに何かあれば飛び込んだのは近場の図書館でした。
士業資格について調べたり、法律の初級本で学習の下地にしたり。
転職の心構えや、業界選び。社会保険手続きなどについて詳しくなったり。税金周りのことや会計知識を得たり。健康不安があれば、医者に通う前に下調べしたり、治療の裏がとれたりもします。生活の知恵で大いに役立ったのは、断捨離、お片付け術やDIY、さらには家事の時短など。とくに念願の家庭菜園をスタートさせる後押しをしてくれたのは、初心者向けながら本格的な農業者によって書かれた栽培法や木の伐採、堆肥のつくり方などの書籍でした。宗教家や偉人の言葉に励まされ、私淑したりするのも、図書館で何気なく手に取った一冊が出会いのはじまり。
もちろん、身近には経験値のある方もいらっしゃいますが。
本で得られる知識は読み比べができるので、取捨選択できるのがメリットです。教わった人の指示に従わないと気分を害されてしまう、という慮りがないのがよい。学校の教師に恵まれなければ、良書を求めればよいのです。
本で聞きかじったことを専門家にぶつけてしまって、ぎくしゃく、なんてことも多々ありますけども。
専門家といいますのは、こちらの困りごとを先鋭化して簡明に伝えないと、はまった答えを投げ返してくれないこともあります。対話のテーブルに並ぶための下準備として本を読まねばならない。
図書館はまた必要最低限度の芸術文化に触れられる場所でもあります。
海外や都心部のミュージアムに飾られている名画を図版で楽しむこともできますし、映画やドキュメンタリー番組、音楽などの視聴もできます。図書館で所蔵の漫画は公益性の高い表現が多いので、気晴らしにするのにも、精神的な負荷が低いですね。何年も前に出版されたがすでに書店では取り扱っていない小説本なども置かれてあり、ある時期、特定の作家にドはまりして集中的に作品を網羅したい、なんて読書熱を発散させてくれるのも図書館ならではでしょう。
図書館の一番の魅力は敷居の低さ。無料で利用でき、知識を市民で共有できるということです。
ひとりの人間が買える本、読める本、保管できる冊数には、どうしたって限りがあります。私がかつて勤めていた公立図書館には、毎日、ホームレスの男性が通っており、正職員さんは嫌がっていましたが、持たざる人間に残されたたったひとつの知のアクセスとして、図書館は万民に開かれているべきなのです。児童書コーナーの絵本や紙芝居はいつもボロボロでしたが、多くの子どもたちが読み聞かせで親御さんとやさしい時間を過ごしたことでしょう。酷暑を避けるために涼みにきてもいいでしょう。
私も以前は、見栄っ張りなので、こんな小難しい本を読んでいるぞとばかりに、お堅めの哲学本や思想書などをがっさり借りていたりもしましたが。
病気を得てからは、なるべく、脳の負担がかからないように、言葉が柔らかく、図解が多くて、中身がすんなり頭に入りやすいような本を選ぶ傾向があります。図書館ではシニア向けに大活字本もそろっていますので、人生のステージが変わるごとに本とのかかわり方を修正することもできそうです。最近は極度に厚めのハードカバータイプの書籍は保管しないようにしています。
人生に迷った時には先人の教えになじみたい。
時の試練をいきのびてきた古典の中には、自分を変えるヒントが隠されていることがあります。周囲やウェブ上の心無い発言に傷ついたときも、慰めてくれるのは、それなりの美的基準をクリアして書籍化された一冊の本の、わずかな一節、一文、あるいは一枚の絵や写真だったりするのかもしれません。
(2024.11.14)
読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。