陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

若者たちが狙われる闇バイト

2024-11-23 | 教育・資格・学問・子ども

最近は小中学生に投資マネー教育をするとかで政府も躍起になっている。
子どもたちの人気職業がユーチューバーになったり、タイパのいい仕事がいいという意識も高い。私の知人の男児も、ポケモンカードを買い集めたら将来値上がりするからと言ったり、正月にもらったお年玉の額をひけらかしにきたりしてびっくりしたものだ。親御さんはきちんとした勤め人で、お受験校に通っているお子さんなのだが、それでもこうしたゆがんだ金銭感覚はどうしたものだろうか。

お金をたくさん他人から貢いでもらえる自分は価値がある、そんなゆがんだ自尊心なのだろうか。SNS上のいいね稼ぎと同じような軽さで。

関東地方を中心に高齢者世帯を集中的に狙った強盗殺人事件が多発している。
その実行犯たちはいわゆる闇バイト、たまたまネットなどで集められた素人の若者たちという。数か月前にも、かつて大河ドラマ出演経験のある青年俳優が焼き肉店経営者夫婦を殺害した事件に関わったと報じられていた。

この闇バイト、逮捕された若者たちはいかにもワルというタイプばかりではなくて。もともと内向的で優しい子だったと評されることもある。なぜ、こうした普通の人間までもが巻き込まれるのか。そこには巧妙な人集めの手口があるという。

インディード、タウンワークなどの大手求人広告サイトやSNSで、「運転手の補助」「書類の受け取り」「現地調査」などの軽作業を装い、即金高給を甘い言葉で誘って、お金に困った人間を釣り上げる。実際は、強盗の見張り役だったり、オレオレ詐欺の受け子や出し子にさせられる。

さらにはITエンジニアやウェブデザイナーなどのフリーランスが登録しがちな副業サイトでも個人情報を抜かれたり、口座を振込詐欺に悪用されたりもするという。申し込み時に匿名性のアプリのダウンロードを促されたりするので用心したい。身分証明書をアップしろと請求されたりもする。

闇バイトに関わると足を洗うのも容易ではない。
気づいて抜け出そうとしても、住所を知られているので、家族に危害を加えると脅迫されて手伝わざるを得ないという。知らず知らずのうちに強盗や犯罪の片棒担ぎをさせられてしまう。そして指示役は海外に高飛びして行方をくらます。

実行犯にさせられた者には懲役刑はもちろん、被害者からの損害賠償請求も待っている。日本では前科者の就職は容易ではなく、再犯率も高くて刑務所行きになることも多いとか。また一度犯罪者として名を知られてしまうとウェブ上に実名も残るため、まともな社会生活を送ることも難しくなるだろう。

かつての暴力団やテロリストの宗教団体かと見まごうほどだ。
奴らは決して犯罪者であることなど匂わせず、明るい雰囲気で、楽して稼ぎましょうよ、と近づいてくるのだから。

実行犯で逮捕されるのは若者が多い印象だが、老若男女問わず、他人事とは思わない。待場で配布されているフリーペーパーの求人誌でも、うさんくさい軽作業の単発バイトを見かけることがある。

現在は本業が個人事業主だが、会社員としては幾度も転職を繰り返した身としては。
それなりの法人化した組織に属していること、長くひとつの職業を極めていたこと、それ自体こそがその人の人格を陶冶し、信頼を勝ち得ている、さらに安定してお金が入って生活が安定する手段なのであるとつくづく思うのである。これはパートタイム仕事であったとしても変わらない。

誰しも若い頃は欲望が多くて迷いやすく、少しでも給料のいい仕事に飛びつきたいと思うものだろう。
苦学生だった私も、さすがに風俗業というのはないが、うさんくさげな雇用主にも出会ったし、労基法違反すれすれな会社で働いたこともある。サンプル配布などのデモンストレーターめいた仕事もやって、一時的にお金は溜まったが、なにがしか仕事のスキルが身についたわけでもなかった。その当時は資格試験しながらだったので、単発バイトでもよかったのだが。

誰がやっても同じで、その日だけの仕事だからお客さん扱いで大事にされるけども、常日頃顔つき合わせて個々の業務に責任が伴う仕事ならば、もっと現場では厳しい言葉が飛び交うだろう。それがほんらいの仕事なのだ。楽な仕事ばかり選ぶとメンタルに負担はかからないのだが、しかし、将来的にスキルアップは望めないのである。小銭は稼げるが、何かを成し遂げたという実感がない。お金さえ稼げたらいいや、という人しか周囲に集まらず、仕事の愚痴ばかりになってしまう。

なにより、他人と協働するという過程を経ないと、人間は成長できない。独りよがりな人間になってしまいやすい。働くことの究極の果実は、自分が他者の役に立っている、この充実感ではないだろうか。

お金に困ったときは上手い話に騙されやすい。
ねずみ講などもそうだが、楽して儲かるビジネスは他人にうかうか明かされるものではなく、その手法が売られるときはすでに市場が飽和して出がらしになってると思った方がいい。メンタルが弱っていると、あの手この手でサイコパスな負の感情で連帯したがる人間がたかってくるのだ。

今回の強盗殺人事件の実行犯のなかには税金滞納をしていて、闇バイトに応募せざるを得なかった者もいた。
私自身も奨学金返済を抱えながら亡くなった親族の延納していた税金を肩代わりしたので苦しかったのだが。お金に困ったときでも、危ういことを考えずに、ふだんからお金の管理に目を光らせておけばいいのだと、この十数年間で学んだものだった。税金は行政サービスを受ける対価であるので踏み倒してよいものではないし、家計簿をつけていれば毎年の収支が把握でき身の丈に合った生活レベルがわかるはずである。若者たちに必要なのはむやみやたらなマネー教育ではなく、こうしたお金の管理法ではないだろうか。

警視庁などでは、こうした闇バイトを啓発する情報公開をしている。
怪しいと感じたら、家族など周囲の人に相談するか、警察に駆け込んでと注意喚起を促している。犯罪の加害者はもちろん、被害者にならぬためにも情報を共有していくことは大事なのだが。タブレットばかり見ている若者たちは、周囲の人間とまともに会話することさえないのではなかろうか。

貧困にあえぐ若い世代が搾取されないように、行政が主導して働き口を確保したり、雇用の安定が暮らしの安定につながり豊かなキャリア形成につながり、人生の展望が開けることを率先して示していく必要があるのではないだろうか。若い頃は貧しいからこそ、伸びしろがあるというべきなのではないか。

汗を流して生きることを厭う若者たちを生み出したのは、労働を嫌なものだと感じさせているわれわれ大人世代の責任でもあるのだろう。
お金をたくさん稼げる人間が偉い! 生活必需品でもないようなものを大量買いして経済を回してる自分はすごい! という世の風潮が子どもたちを安易な闇バイトへ走らせているのかもしれない。

お金では買えない体験や、数値化されないような感情のやり取りがあることを大人が教えるべきではなかろうか。


【参照サイト】
#BAN 闇バイト(警視庁ホームページ)



(2024.10.22)








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