陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「今、このままがいい」

2014-06-09 | 映画──社会派・青春・恋愛
2008年作の韓国映画「今、このままがいい」は、性格もキャリアの正反対の異父姉妹が、父親探しの旅に出るロードムービー。観終わったあとに、タイトルの言葉をたしかにつぶやきたくなるほど、静かな感動に包まれる作品です。

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大都会ソウルでキャリアウーマンとして働くミョンウンは、母親の急死の知らせを受け、突如里帰りをすることに。故郷の済州島で親譲りの魚屋を切り盛りするのは、シングルマザーの姉ミョンジュ。父親の異なる姉妹は、久方ぶりの再会をきっかけに、かねてから行方不明だったという、ミョンウンの実の父親探しをすることになり…。

エリートで頭のいい妹ミョンウンは、とにかく、明るく気さくではあるが学のない、自分とはまったく正反対の姉のことに苛立ってしかたがない。旅に出たのはそもそも妹の提案で、姉のほうはまったく乗り気ではない。そのやる気のなさが、生まじめな妹にとってはなおさら腹立たしいばかりなんですね。ミョンウンにとっては、自分の母とおなじく父親に「捨てられて」、若くして一女の母になったミョンジュが無責任でふしだらな女に思えて、情けないのです。また、子どもの頃から父なし子だと学校でいじめられていた彼女にとって、故郷も家庭も安らぐ場所ではありませんでした。そんなミョンウンがなぜ、実父に顔合わせしたいかといえば、それは立派に独り立ちしている自分を見せつけてやりたい、という負けず嫌いな鬱屈した感情からなのです。

車に姉妹乗りあわせながらの旅路、途中でさかんに姉妹の過去、若き父と母をめぐるやりとりが挿入されて、事実がしだいに明るみに出されていきます。ミョンウンの父が病気の治療のために日本に渡って、なぜその後戻ってこなかったのか、という点が本作の最大のミステリーなのですが、たしかにこれは驚きます。キャスティングが巧妙すぎて、気づかないといいますか。

例えていえば、「アンナ─まなざしの向こうに─」と、「オール・アバウト・マイ・マザー」とを掛け合わせたような回答なのですが、本作では、父親が自分らしさを求めながらも、けっして子どもを愛することを忘れてはいなかった、という点で前二作をはるかに越える感動が残ります。ただ、これはひょっとして禁断の愛かもしれませんけど。

くわえて、その真実を知ったときに、一人でひねくれていた妹こそが実は親の愛を一心に受けて育っていたこと、それを知りながらも長年伝えられずに、姉として明るく振る舞っていたミョンジュの大らかさに、こころ打たれることでしょう。単なる父親の異なることをめぐって、育ちの違った姉妹の和解の物語に終わらせていません。姉妹愛でもあり、家族愛のお話なんですね。

90分と短い映画なのですが、結末を知っても、もう一度くりかえし観て見たいと思わせる映画ですね。一度目は妹の立場で、二度目からは姉の目線で読み解くと、ずいぶんと違った印象を受けることでしょう。日本ではあまり現実的ではないかもしれませんが、こういう家族のかたちはあってもいいのではないか、と思わせる非常にテーマの深い一作です。こういうマイノリティ向けの問題意識のない人には理解の及ばないものだと思いますが。なんていうか、日本のサブカルチャーでおどけてごまかされて、萌えとして消費されてしまうタブーに真っ正面から挑んだというのがすごいですね。

出演は、姉役がコン・ヒョジン、妹役がシン・ミナ。
監督はプ・ジヨン。

(2012年11月18日)


今、このままがいい - goo 映画

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