陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「いかさま宮様日記 お正月編 」

2007-01-04 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
姫宮千歌音より皆様に新春のお慶びを申し上げます。

慌しく年の瀬を過ごされた方も多いのではないでしょうか。
我が姫宮邸の年末は使用人総動員の大掃除でてんてこ舞い。
部屋の片隅から、アルバムに整理していなかった写真の束が出てくると姫子と二人で見入ってしまうことしばしばで。乙羽さんに叱られてしまったけれど…。
邸内の旧年中の埃を隈なく払って、無事に新しい年明けを迎える事ができました。

元旦の朝は、姫子と二人でサンジュストに乗って、海辺で初日の出を鑑賞。
水平線から昇る最初の太陽が、薄紫色の空に光を流して大晦日の夜を溶かしてゆく。世界がじんわりと明るい色で満たされてゆくさまがとても美しい。

けれど、それ以上に私が見惚れていたのは曙いろに染まる姫子の横顔でした。
ぴんと張りつめた朝の静寂な空気を吸い込みながら、私は不思議と温かさでいっぱいになっています。
彼方にではなく傍らにあるお陽様の光に触れている、その安堵感と悦びが胸に溢れていたから。
新しき年、睦みの月をまた愛しき人と一緒に迎えられることに感謝しました。

そのあと乙羽さんが用意してくれたお雑煮(椎茸が多め?)を朝食にして、大神神社に二人で初詣。

お揃いの振袖を纏った私たち。姫子は小柄な上に、撫で肩で胸元も緩やかだから着物が良く似合います。着付けのし甲斐があるというもの。
並み居る参拝者の列に押し流されないように、私と姫子はしっかりと手を繋いで境内を歩いていきます。学園内では今でも恥ずかしいけれど、人波に紛れるからこそできる大胆な行為かしら。
裸の枝垂桜に結ばれた御籤が、あたかも金木犀のように願いの白い花を、今を盛りと咲かせていました。

今年の願い事はふたつ。アニメ京四郎での私たちのお芝居の成功。
それともうひとつは…。
賽銭箱の前で瞳を伏せて一心不乱にお祈りしている姫子の姿がひたむきで可愛らしくて。
やっと顔を上げた姫子を覗き込むように「何をそんなに熱心にお願いしていたの?」
と聞いてみたら、少し頬を染めて「千歌音ちゃんと同じ」とはぐらかされてしまいました。


その日の午後は、あいにくと姫宮グループ主催の謹賀祝年パーティーに顔出ししなければならなかったのです。
二日目の今日は、姫宮邸にて恒例の新年会を開きました。
本当は二人っきりが良かったのだけれど、姫子が寂しがるので、早乙女さんや乙羽さん、里帰りしなかった複数人のメイドさん達を交えたものに。
もちろん男子禁制。

余興では、四十畳敷きの大広間で百人一首大会を楽しみました。
屋敷内の部屋を使った人間双六なんてアイデアも浮かんだのだけれど、休暇中で人手が足りないし乙羽さんに迷惑がかかるので断念。

歌留多取りは、最終的に反射神経のいい早乙女さんと私の一騎打ち。
私は百首を諳んじるほどで、上の句の最初の一行を耳にした時点ですべての下の句札を手の内に絡めとる自信はあったのだけれど…今年は早乙女さんに軍配。
「宮様に勝った!」とガッツポーズの早乙女さんにおめでとうを送る姫子。
彼女達を横目に、集めた札を手にしながら満足気な忍び笑いを洩らしている私。
すると姫子が少しはにかんだ顔つきで訊ねてきました。

「千歌音ちゃん、その…わざと手を抜いていたの?」
「いいえ、そんなことないわ。姫子は…」

──姫子は私が勝った方が嬉しい?

続けてそう尋ねたかったけれど、その問い掛けが姫子を困らせるものだと気づいたから、私は言葉を呑み込みました。

「じゃあ、どうしてわたしの取ろうした札とかち合うのかな。わたし、わりと間違って手を出していたんだけどな」
「姫子の取りたい札が私の欲しい札だったから」

迷いのない眼差しで私はそう告げて。
その言葉を裏書するように、さっきは何度もさり気無さを装って触れ合った掌を、今度はしっかり握り締めてみせました。
片時も離れておきたくなくて姫子の温かさを求めてしまう掌(たなごころ)。
さきほど二人の手が重なって(姫子のほうが下だったからもちろん譲歩したけれど)しばらくそのまま見つめ合ってしまった一枚を思い出しました。

「君がため惜しからざりし命さへ」

私の唇がふと上の句を刻むと、

『長くもがなと思いけるかな』

軽く頷く様な素振りをみせた姫子は、手元にあった下の句札を私に示してくれました。
溌剌と輝くような笑顔を添えて。

生まれ変わって願い叶って心が通じ合った今。
私は末永く生きて、姫子といつまでも愛し合っていたいと思いました。
姫子もまた同じ気持ちだったのでしょう。

この一枚だけは絶対に取り逃したくなかったから。
誰にも譲りたくない想いがそこにあるから。
そして、二人の掌が探り当てたものが同じ望みだと分かったから。
神様に願うだけじゃなくて、私たちが本当に掴んだ幸せが確かなものだったから。
だから、私は微笑んでいました。
姫子もその嬉しさを、屈託のない笑みで返してくれました。


そのあとは二人羽織りで百人一首の仕切り直し。
くじ引きで運良く姫子とペアになって、姫子の両手となった私はもちろん早乙女さん・乙羽さん組を圧倒して先刻の汚名を挽回。やはり私たちの息はぴったりです。



ところで本年から姿かたちを少し変えて、新たな舞台を踏む私たちの心境を表わすとしたらさしづめこの二首ではないかしら?

「難波潟みじかき芦のふしの間も 逢はでこの世をすぐしてよとや」
(短い葦の節と節との間ほどの、僅かの時間の逢瀬すら許されず
 この世を過ごすのは余りに辛すぎる)

「あひみてののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり」
(契りを交わした後の切なさ、苦しさに比べれば、結ばれる以前の恋心など
 物思いのうちに入らない)


せっかく日夜キスの練習をしてきたというのに、かおんとひみこはうっかり口づけを交わせないような関係なんです。
愛しているから、お互いを大切だと思っているから、できないキス。
恋は成就してからが、本当の苦しみが始まるというもの。
結ばれる以前の恋煩いは、私一人だけのものだった。それはどこかしら感傷的で自己陶酔的で、荒削りで。
けれど、今度の物思いは二人して分かち合えるもの。
それは嬉しくはあるけれど、決して甘くはない。
私たちの演じる恋の道行きは、悲しい終わりを迎えるのかしら?


せっかくの年明けの晴れやかな気分を、暗くしてしまうのは忍びないわね。
たとえ唇が離れていても、姫子と同じ恋唄を口ずさむことのできた幸せに、せめて今このときだけは浸っておきたいと思います。


では姫子と「今年初めて」の約束があるのでこのへんで。









【後記】

姫子「千歌音ちゃん、お神酒の飲み過ぎでまたヘンなこと書いてるよ…」
   
そういえばアニメ第一話でソウマ君が寄りかかっていた鈴の引き綱よく千切れなかったよね。
彼の恋愛運は相変わらず凶かも(笑)


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2 Comments

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Unknown (ユリミテ)
2007-01-06 12:52:53
うわー。面白い!
素敵ですね^^
>お雑煮(椎茸が多め?)
ここ、思わず笑ってしまいました。
やっぱり乙羽さんはGJな人です!^^
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新年も甘い二人 (万葉樹)
2007-01-07 12:27:02
ユリミテ様、ごきげんよう。

お正月中に時間が取れたので、神無月妄想に浸ってみました。椎茸攻撃はもはや定番の笑いどころですよね!私も乙羽さん大好きです。

姫子にお雑煮作らせたら、やはり甘いのでしょうね(笑)
そして嬉しそうにそれを食す千歌音ちゃん(笑)
厨房で仲良く重箱におせちを詰めている二人とか思い浮かびましたが、うまく書けないので自分の脳内だけで楽しむことにします。
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