日本では、わずか30年で正規雇用が減り非正規雇用が増えました。その理由を語る研究報告が出されています。しかし、その多くは、経済面(国内景気の長期低迷、市場のグローバル化による国際競争の激化や情報通信技術の高度化による人件費抑制圧力)、労働政策面(派遣労働法改正による労働規制緩和等)、社会面(若者を中心にした働き方に関する多様化、高齢労働者の増加、長時間労働など日本的労働慣行の弊害等)からの考察など。
非正規雇用者の増加は、ほんとうに環境要因だけなのでしょうか?
私の知り合いには、10年以上派遣で働く40歳前後の男女、5年も特殊法人での契約職員をつづける30代女性がいます。彼ら彼女らは「いつか正社員にしてくれるから」「福利厚生がいいから」「公務員や大企業正社員との出逢いがあるから」「趣味の時間を大切にしたいから。仕事はお金稼ぎ」という理由を口にします。派遣でないと自分の働きたい職種がないから、中小企業だとサービス残業が多いから、という切実な答えもあります。職探しの案内をする公共職業安定所の職員ですら、いまや非正規雇用者の時代です。
よくお役所や大企業などで、窓口受付にいる横柄な女性を見かけます。
ほとんどが30歳前後かそれ以降の非正規雇用者です。彼女たちは組織の大きさに寄りかかって自尊心を高めているだけで、価値の高い仕事をしていませんし、一般市民を見下しています。客がいない時間に無駄話をしたり、同僚の噂話をしたり、雑誌を読んでいたり、客の個人情報を暴露したり、訪問者が帰る際にお辞儀や気遣いなどをするのは商売屋のすることで恥ずかしいといいます。権利意識だけが人一倍高いだけで、労働価値の高い仕事をしていません。
もちろん、ほんとうに正社員・正職員並みの力量があって仕事をされている方もいます。
しかし、そういう人はおそらく長くは非正規状態でおらず、さっさと自分の労働価値を正当に評価してくれる職場へ転職しているでしょう。非正規雇用が多い職場は、抜きん出ない様に、足の引っ張り合い、ミスのなすりつけあいばかりで、人間関係が硬直しています。しばしば非正規雇用の求人を出している職場はそうです。
残念ながら、残酷なことをいいますね。
一般事務や受付といった生産価値の低い仕事は、AIやロボットに奪われるでしょう。すでに金融機関ではフィンテックの進展で、大幅に店舗の人員削減を行っています。ただの数字をうちこむキーパンチャーのような作業はもう不要。生き残れるのは、融資のコンサルティングができるか、金融商品のセールスができる人材のみ。金融商品取引法の改正で不当な勧誘は禁じられていますから、そうとう倫理観が高く、顧客本位で提案ができないと仕事を奪われてしまいますね。事実、我が県のハローワークの求人では、地銀の給与は11万円から。驚くべき低さです。銀行員で高給取りなのは、出世レースを生き残った支店長クラス。ある年齢になると出向するか、肩たたきに遭います。
お役所、大企業、金融機関や大学など。
そのほとんどの窓口にいる労働者は、非正規の人ばかりです。下手すると二か月間だけの雇用契約を繰り返されて、社会保険に加入できないままのひともいます。このあいだ求人誌を眺めていたら、某市役所の行政事務職に派遣社員募集との告知がありました。個人情報などを扱う業務なのに、非正規雇用者にさせていいのか、とても不安ですよね。中小企業の正社員でいる人からすればとても不思議なのですが、それでも、母体が安泰だから安心して働けるといいます。
彼女たちは、周囲が高給の正規雇用者ばかりで、書類作業やPCを使っていてスキルが高いと勘違いしていますが、なぜ、自分の「尊ぶべき」業務が「非正規という契約形態」なのかを理解していません。誰がやっても同じ仕事だから非正規やパートタイムで、経営者は雇っているんです。2018年の無期雇用転換ルールで、有期雇用労働者にも期間の定めのない働き方が可能になりますが、正規雇用者よりも賃金水準が低いまま据え置かれることになりかねません。
下手すると、すでに退職して数年たつ、そうした「尊ばれるべき非正規の仕事」を持ち出して、自分の価値を高めようとする人もいます。しかし、企業が欲しいのは、現在のあなたの労働価値です。あなたがいくら大企業正社員や公務員正職員でいた優秀な人だっとしても、辞めてしまったら、あなたの価値はそこにはありません。 あなたのすでに終わった就業先のネームバリューなどはどうでもよろしいし、自社の同僚と軋轢を起こしかねないと疑われます。実際、気位の高い40歳前後の主婦が二か月で契約を切られてしまったのを見かけたことがあります。自分の過去の職種(保健施設の栄養士だったらしい)や我が子への教育熱心さをアピールしすぎて、現業の勉強をおろそかにし、他の人の仕事の邪魔をしていたからです。いわゆる構ってちゃんですね。
正社員としてきちんと就業することは、自分の身元を保証することです。いくら勤め先が大手でも、専門職であっても、派遣社員は外部の人間であり外注費扱いで余所者です。企業経営の基幹となる業務には携わらせてもらえません。非正規雇用者には昇給も賞与もありません。
自分勝手に、好きなだけ働く、締切は気にしない。他人から憧れられるような、好きな仕事をするのがカッコいい。
こんな働き方をしていると、会社はいくらでも残業をつけないといけないので、会社からお荷物扱いされてしまいます。漫画家さんの仕事でもチームワークですので、人を管理できない人は自分の作品を世に出せません。電通事件の余波で、社員の働かせ方に対する学生の企業選択の目線は厳しくなっていますが、企業だって、あなたがどれくらい仕事で貢献してくれるのかじっくり観察していることを忘れないようにしましょう。
現在は売り手市場ですから、企業がわも採用意欲が高い。
新卒のみならず、中途採用であっても、きちんとしたスキルアップや資格取得、業界研究に努めていて、志望動機が明確であれば、企業も喜んで採用します。非正規雇用はあくまで一時的な働き方と考え、その後のキャリアをどうするか人生デザインをしっかりしておくことですね。
なお、非正規雇用の問題は、正規雇用者にとっては対岸の火事ではありません。
企業や官公庁が安い労働力に置きかえているのは、いずれ正規雇用の口を削減するためです。また、非正規雇用者の賃金水準が低いので、正規雇用をも含めた日本人全体の賃金は上昇しづらいという現象もおきています(『人手不足なのになぜ賃金は上がらないのか』玄田有史ほか著・慶応義塾大学出版会・2017年)。退職勧奨に応じた大手製造業の中間管理職が、転職したがうまくいかず、元の職場に派遣社員として舞い戻ったという笑えないケースもあります。また日本の定年退職後に再雇用される高齢者の多くは、1年間ごと契約更新の非正規です。非正規という働き方は、いずれ誰もが経験するようになるのです。
【関連ニュース】
正規雇用9割のフランスと非正規4割の日本は何が違うのか(ダイヤモンドオンライン2016/05/16)
日本人社会には、良かれ悪しかれ「個人の権利」より「組織に対する義務」を優先する文化特性がある。正社員と同じ待遇にしてほしい」と権利を主張せず、まずは、その与えられた組織の義務を果たし、その頑張りとか組織への献身度(組織に心・時間・エネルギーを捧げる程度)を認めてもらうことで、権利を得ようとする。
本気で「非正規」をなくし、同一労働同一賃金を実現する方法(ダイヤモンドオンライン2016/12/28)
全労働者を一定の補償の下に解雇ができる現在よりも流動的な「正社員」として一律に扱うようにできれば、雇用形態の違いによる差を気にする必要がなくなる。全ての正社員の雇用と報酬が柔軟に調整できるようになると、企業にとっても、社員にとっても、よりフェアで効率的な仕事の進め方が可能になる。
企業が正社員採用したい派遣・アルバイトはどういう人か(ダイヤモンドオンライン2017/11/13)
派遣やアルバイトから正社員になったからといって、待遇がいいとは必ずしもいえない。とくに大企業の場合、新卒入社組、中途採用入社組、派遣登用社員組で色分けされ、昇進や昇給、賞与に差があることを薄々感じることもある。