結構、今回の作品、反響も大きく、質問に答えておこうと思い、演出家にインタビューします。
Q.なぜエレーナがマネキンだったのですか?
この作品の中で、エレーナは言わば「理想の女性」です。それはアーストロフやワーニャから見てそう、というだけでなくソーニャやセレブリャコフから見てもそうです。だからワーニャに「せめて人に一度、思う存分に生きてごらんなさい」とか言われているわけです。みんな自分の中のエレーナ像で彼女を見ているのでエレーナは閉塞感を感じている。
当初ぼくはエレーナは現代のアイドル(偶像)だなあ、と思いました。それこそAKBの誰々とか何とか坂の誰々とかのブロマイド?を飾ったりしたかったのですが、それは色々と問題がありますよね、肖像権とか。キティーちゃんとかも良かったんですけど、これもね、商標とかね。客観的に見れば偽物である“女”を取り合う男二人はコメディーになると思ったのです。
とりあえず作品を短くする時にエレーナにまつわるシーンをカットした、という理由もあります。チェーホフの奥さんがやっていた役だという偏見もありますが、若干リアルじゃない気もしましたし、有名なシーンも多いし。
本当は、公園にあるパンダに似た変などうぶつの遊具というか乗るやつを置きたかったんですよね。でもあれは高価だし、アーストロフが連れていくっていうのもやりたかったんで、マネキンになりました。
いろいろ違和感を感じさせたとしたら狙いは狙いなんですが。演出なさったことのある方や、チェーホフ大好きな方からしたら「なんて事を!」だと思います。僕自身は芝居をリアルに論理的に見るタイプなんで、アーストロフとワーニャで「恋愛ごっこ遊び」をしているように見えています。もしくは本当に狂ってしまっているのか。声もあの人が喋っているんじゃなくて僕の耳に(自分の中で)聞こえている声なんですよね。
Q.なぜソーニャは美人なのですか?
これも言葉をきちんとそのまま受け止める素直な方には不思議に思われたのでしょうね。彼女自身は「自分は美しくない」とコンプレックスを持ってますもんね。でも実際は可愛い方がリアルだし、その苦悩というか問題点を浮き彫りにしやすい、と思っていました。僕も実生活では、空気は読みたくない人間なので「言葉は言葉通りに」受け止めたい派です。でもこの戯曲は全員自己否定が大好きで、日本の人もそういう人多いと思うんですけどね。ぺんぺんさんはもうそりゃ美人で可愛いと思います。彼女自身の努力に加え、衣装・ヘアメイクスタッフの頑張りのおかげで素晴らしかった。だからこういう質問が出てくるっていうのは演出意図としては成功なんですが。実際、「私は可愛いです」って言う人よりは「私、美人じゃないので」と言う人の方が多いし、美しいか美しくないかと言う基準そのものが曖昧ですからね。聖書には「自分の内面を飾りとしましょう」とあります。それでいけばワーニャを励ますソーニャは抜群です。ちなみに彼女の歌にあった「優しい子なのに・・・」の後に続けられていたのは、優しい子なのに伯父さんとお祖母さんの世話でお嫁にはいけないわね
と続いていたのではないかと読んでいます。実際この時代、持参金なしには結婚できない今とは異なる特殊な事情がありました。でも現代日本でも美しいかどうかという事もそうですし、経済的な事でも結婚に二の足を踏ませる状況は多くありますね。
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