デンマークの新聞社がイスラム教の預言者ムハンマドの姿を風刺した漫画を掲載したことを皮切りに、ヨーロッパ各国の新聞や雑誌が次々に転載し、それと共に中東はじめイスラム教徒の抗議デモが世界で拡大している。そこに〈表現の自由〉を旗に、フランスの漫画週刊誌が新たな風刺画を含めて掲載に踏み切ったからだ。すでに同漫画週刊誌は47万部が売れたという。発行以来最大の売れ部数だという。
「法治国家なら表現の自由は最大に尊重されるべきだ」と同誌の編集長は語っているが、偶像崇拝禁止のイスラム教、という観点からだけではなく、9.11テロ事件をきっかけに始まった〈テロとの戦争〉で、アフガニスタンやイラクではいまも普通のイスラム教徒が大勢殺されたり傷ついている。
そればかりか、マドリッドでもロンドンでも地下鉄を狙ったテロ事件が起き、フランスでも暴動が起きた。にもかかわらず、である。
ジャーナリズムに身を置く私としても、〈表現の自由〉は最大限保護されるべき権利ではあるが、フランスの漫画週刊誌の今度の決定はふたつの意味で間違っていると思う。
ひとつは、いかに〈表現の自由〉があるからといっても、イスラムの人々を侮辱する権限はない、という意味においてである。有り体にいえば、罪も犯していないのに、人が嫌がることを〈表現の自由〉を御旗にして掲載するということは〈表現の自由〉の乱用である、と思うからである。
ふたつめは、9・11以来この5年間、そうでなくともイスラム世界との摩擦は沸点に達しようとしている。もはやこれ以上、意味もなく摩擦を助長する行為は止めるべきだし、メディアは〈文明の衝突〉に向かうような火だねを蒔くのではなく、むしろ寛容と理解を訴えるべきだ、と考えるからである。
アメリカのブッシュ大統領は、珍しく(?)慎重な言い回しで世界の首脳に訴えた。
「自由には他者を思いやる責任が必要だ」。
アフガンやイラクで戦争を抱える大統領としては、これ以上イスラム教徒との混乱は避けたい、という思いが強かったのだろう。
そういえば、3年前だったか、イラク開戦を巡って、国連の査察はもう必要ないというアメリカの主張に真っ向から反論した当時のドピルバン・フランス外相の国連演説は感動的だった。彼はいま首相になった。そのお膝元で、イラク戦争に勝るとも劣らないイスラム教徒との対立が起きようとしている。
フランス内部では、いまいったい何が起きているのだろう。
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