これまでイラク戦争によるアメリカ兵の実相は、なかなか伝わってこなかった。それは〈テロとの戦争〉で犠牲となった兵士たちの情報が、意図的に遮断されてきたことにある。いまでは上の写真が物語るように、棺の姿での帰国は日常的になった。いったいこの戦争で、アメリカはどのくらいの犠牲を払っているのか。引き続きイラクの戦争を考える。(写真はネット上から無断転載)
始めた以上、途中退場は許さない、ということなのだろう。これもまた正義といえば正義である。『共同通信』が伝えるアメリカ国民1000人を対象にした世論調査が示した数字のことだ。
《以下引用》
「ブッシュ米政権の対イラク政策に関連し、米国民の57%が、イラクの情勢が安定するまで米軍は撤退すべきでないと考えていることが17日、AP通信が発表した世論調査で分かった。1年前の調査で同様の回答をしたのは71%で、14ポイントの落ち込みながら、依然過半数がイラクへの米軍駐留維持を支持していることになる。即時撤退すべきだと回答したのは36%だった」(12月18日『共同通信』)《引用ここまで》
混乱から安定へ、破壊から復興へ・・・。もはや戦争の大義は失われてしまったとしても、混乱を招いた原因はアメリカにある、破壊し尽くした街々の復興はアメリカの責任である、そのためにも軍は撤退すべきではない・・・。ひとことでいえばこんな声なのだと思う。アメリカ人の「良心」のひとかけら、ともいえなくもないが、こういう作業は軍がやるべきことなのかどうか。
本来、軍隊が目指すべき方向は勝利か否かである。勝ち負けどころか開戦理由もすっきりしないまま、壊すだけ壊しておいて安定だ、復興だといっても、いったいイラク人の誰が信じるというのか。イラク人にとって戦争は続いているのである。その戦争に、アメリカは果たして勝利することができるのだろうか。
アメリカを襲った〈9・11〉テロ事件から4年目となった今年9月、この問題について私は「アメリカは勝利するか」と題して地方紙に記事を書いた。3回に分けてお伝えする。(数字や数値は新聞掲載時点でのもの)
■「9・11から4年」アメリカに勝利はあるか?~損耗率39%が語るイラク戦争~
「私が大統領である限り、イラクに踏みとどまり、テロとの戦いに勝利する」
開戦の理由とされた大量破壊兵器もなく、民主化どころか内戦の危機まで招いてしまったイラク戦争に対して、あの戦争は間違いだった、と声を上げ始めたアメリカ国民が六割にも達しようとしていた今年8月、ブッシュ大統領は自らの任期中はイラクに踏みとどまり、〈テロとの戦争〉を続行する、と宣言した。つまりあと37ヶ月間は頑張る、といってのけたのである。
イラク開戦から2年5ヶ月経ったこの時期に、あえてこのような宣言をし世論のざわめきを鎮めなければならなかった背景には、いまもほぼ毎日のように伝えられる米兵死傷者のニュースがアメリカ社会に重くのしかかっていたからである。
【ティクリット=中央軍司令部発表】九月十一日早朝、イラク・サマッラ近郊を装甲車に乗ってパトロール中のアメリカ陸軍機動部隊所属の兵士ひとりが、道路に埋められた爆弾の爆発で死亡、ほかに二人の兵士が重傷を負い、軍の治療施設に運ばれた。
9月11日といえば、アメリカが〈テロとの戦争〉を始めるきっかけとなった悲劇がニューヨークを襲った日でもある。その日からちょうど4年目を迎えたイラクで、道路脇に仕掛けられた爆弾の犠牲となった米兵は22歳。彼の夢は体育の先生になることだったという。
「兄は先生になるためのトレーニングを受けることになっていましたが、ニューヨークで起きた9・11事件がその機会を奪ってしまったんです。それと同じ日に、今度は兄の夢を永久に奪うなんて・・・」と妹は言葉を詰まらせた、と地元紙はリポートしている(9月13日付『アンカレッジ・デイリー・ニュース』)。
イラクに対する最初の空爆が始まった03年3月20日以降、これまでに犠牲となった米兵は1899人(9月15日現在)。負傷者は2万5000人(7月4日現在・在独米陸軍病院集計)に上る。平均して1日に2.09九人が犠牲となり、29.9人が負傷している計算になる。
そしてブッシュ大統領が宣言したように、任期中はイラクに踏みとどまるとして、さらに37ヶ月間頑張り通すとすれば、戦死者1654人、負傷者2万5834人が新しく加わる。実際の死傷者をも合わせると5万4385人という数字は、現在イラクに配備されている14万人兵力の実に39%に相当する。もはや軍隊の体をなさないということだ。
いうまでもなく、この試算は比喩的なものである。実際には部隊は交代し、14万人体制は維持されるからだが、問題は戦況に好転の兆しがさっぱり見えないいま、軍の損耗率39%という数字が意味するものだ。
ことにひとりの犠牲者に対して負傷者14人~15人(通常の戦争では死者1対負傷者3~5といわれている)という異常な多さは、医・治療技術の進歩が死者の数を減らしている、という側面があったとしても、一方でこの〈テロとの戦争〉の性格を如実に物語っている。
「誰が敵なのか、さっぱり分からないんだ」
大規模戦闘の終結宣言が出された一昨年5月、バグダッドで出会った米兵は、突然襲ってくる自爆テロや路肩に仕掛けられた即席爆弾、自動車爆弾の恐怖を語ってくれたが、イラクで起きているテロの本当の脅威は、一瞬の爆発が多くの兵士たちの顔を炎で焼き、視力を奪い、手を吹き飛ばし、足を吹き飛ばしてしまうことだ。アメリカ国防総省は反戦世論の高まりを警戒するのか、負傷した米兵の数も傷の程度も控えめにしている。
「これからの人生は、戦争そのものよりももっとひどいものになるだろう・・・」
手足を失った兵士たちが抱くこの思いこそ、損耗率39%の内実を語るものであり、そしてこれは、戦争の大義もないなか、イラクに残された兵士らの士気をさらに脅かしていく。(9月20日付『琉球新報』掲載)
(この稿続く)
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