Re-Set by yoshioka ko

■「検証・韓国反米感情の深層」 第六回

 ようやく編集という作業が終わった。
 しばらくぶりの更新となったが、中断していた「検証・韓国反米感情の深層」を再開します。

 韓国の新聞が、いまの韓国とアメリカの関係を夫婦の離婚に例えたキャンベル元国防次官の言葉を紹介している。因みにキャンベル元国防次官には、沖縄の基地問題に絡んで、私も一度会ったことがある。そのときは結構ユーモアのある人物だ、と思った記憶があるが、韓米関係について語った記事を読むと、相変わらずのようである。

《以下引用》
 「国防総省次官を歴任したキャンベル副会長は、「韓米関係は、一般的に受け止められているより、もっと深刻に懸念すべき状況」とし、「両国の専門家たちが、韓米同盟の問題点をより率直に言及する必要がある」と指摘した。
 キャンベル副会長は、最近の韓米関係を王室の夫婦関係に見立てた。「実際は仲が悪い王と王妃が、王宮のバルコニーに出て群集に手を振り、何ら問題がないというジェスチャーを見せるのと似た状況」と表現した。キャンベル副会長は「離婚には大きな苦しみを伴うため、離婚による波紋は避けたいというのが今の両国関係」と明らかにした」(『朝鮮日報』3月1日)《引用ここまで》

 なぜ韓国とアメリカは離婚寸前にまで突き進んでしまったのか、前回(2月17日)は、米軍装甲車に轢かれ死亡したふたりの女子中学生の事件がもたらした衝撃と、事件をきっかけに韓国全土で沸き上がった〈反米感情〉をお伝えした。

 今日はその続きです。
 題して『検証・韓国反米感情の深層』の第六回です。
 
■韓米地位協定と基地のまち
 「SOFA(Status Of Forces Agreement)」とは英語表記の頭文字を取ったもので、地位協定を意味する。これは二国間の安全保障条約に従って、外国に展開するアメリカ軍及び兵士の地位を特別に定めた協定文だ。

 アメリカ軍が駐留する日本、ドイツそして韓国にはそれぞれ二国間における地位協定があり、ことにアメリカ軍が絡んだ事件や事故が発生した場合、この協定に沿って処理が進められるのだが、その〈不平等〉が韓国でも大きな問題になっていた。その背景には国家の自立と主体性というものをどう考えるのか、という問題が絡んでいるからだ。

 「今回の事件のように、アメリカ側が容疑者を逮捕し裁判となった場合にその身柄をどうするか、日本では沖縄で起きた少女暴行事件がきっかけとなって、地位協定は運用の改善ということで決着し、殺人や強姦といった重要犯罪に限っては起訴前の引き渡しが可能になりました。しかし韓国では同じ重要犯罪の場合でも、協定上は起訴と同時に容疑者の身柄を引き渡す、となっていますが、実際には裁判が終了し有罪となったあとに身柄が引き渡されるというのが実情なんです」
 外交通商部(外務省)北米局SOFA特別対策班の李容濬班長の言葉には悔しさが滲む。
 
 日本でも十分だとはいえないが、地位協定上に〈不平等〉が存在する理由は簡単だ。自国の安全をアメリカに委ねているからだ。つまりアメリカ兵が起こした犯罪に対して、自分の国を守ってくれているわけだから・・・・、という負い目が(アメリカから見れば崇高な任務に就いている自国の兵士が、いやしくも相手国の法律で裁かれるということは人権上大いなる問題がある、という理屈が)地位協定改正という問題に対して及び腰にさせている原因でもある。

 今度の事件の場合は容疑者は確かに〈公務中〉だった。その場合の裁判権はまずアメリカにある。それは韓国だけではなく、日本でもドイツでも同じである。SOFA協定の上で見る限り、アメリカ軍が捜査を担当したことは間違っていなかった。問題は公務中とはいいながら本当に過失はなかったのか、が問われたのだ。

 轢き殺しておきながら無罪とは何事か、という素朴な疑問から始まった韓国の〈反米感情〉の根っこのところにあったものは、自立への焦がれと主体性の確立という国家のありようと民族の自尊心だった。

 無罪判決を受けた二人の兵士が勤務していたアメリカ陸軍第二師団司令部はソウルの北方40キロ、東豆川市にある。兵員1万人以上、アジア最大の歩兵・機甲部隊だ。

 市の総面積95・7平方キロメートルの中でアメリカ軍基地が占める割合は80%である(軍事施設区域46・9平方キロ、訓練場などの供与地33・7平方キロ)。残された20%の土地に7万6千人を超す市民が暮らしている。

 裁判のあと、この基地を訪ねる学生や若者たちの数が増えた。
 いったい基地はどのような役割を果たしているのか、犯罪、そして東豆川という街がどのようにしてでき上がってきたのか、街と基地はどのような関係にあるのか、基地の正門ゲート前ではさまざまなやりとりが交わされる。

 「70年代、80年代、わが国の経済が厳しかった時期、この街が基地を中心にして発展したことは事実です」
 「軍が引き起こす犯罪からは誰も逃れることはできません」
 「基地の問題は地域の問題ではなく、ひとりひとりの尊厳と人権の問題です」
 「アメリカ兵の犯罪で、韓国側の手によって執行された裁判は、90年代までが0・7%。いまでもたった2%です」
 「今度の事件をきっかけにわれわれが訴えていることは、国家を正しく立て直す運動だ、ということです」

 質疑に応じるのはアメリカ軍による犯罪を糾弾し、地位協定の改定を訴える市民組織のメンバーで、この東豆川で生まれ育った土地っ子たちである。今度の事件が発生するまで、こんなにまでアメリカ軍基地に対する関心が高まったのは、初めてのことだった。(第七回に続く) 

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