「武芸と神事」
武士はその初め、騎射という戦法を専門の業とする特殊技能集団として誕生しました。馬を手繰り、弓を射るのはかなり後の時代まで、武士たる者の正式の戦闘スタイルであり、今日神事として伝わる流鏑馬の儀礼は、武士本来の面影をよく留めていると言われています。
いわゆる勝負事の起源が、神意を占う宗教的儀礼にあるとはよく言われることです。「明日天気になあれ」と言って下駄を飛ばす占いは、意外なところで武士道の精神と結びついています。
予め答え方を決めておいて神意を問う占いは、「うけい」と呼ばれ、古い時代には、様々な道具や所作をも用いて広く行われました。武士の戦法である弓射や馬術は、実は古代における代表的な「うけい」の方法だったようです。
神前に奉納される相撲もまた豊凶を占う神事と深い関係があり、例えば、東が勝てば豊作、西なら凶作と決めておき、その場合は必ず東に勝ってもらわなければならないので、勝つ側も予め定まっています。八百長というと問題ですが、型どおりに勝って見せる演武の起源といえば納得がいくでしょう。このように武芸と神事は浅からぬ因縁があります。
(菅野覚明著「武士道に学ぶ」より引用)