ネネム
言葉なき
お前の笑顔
私が背負う前の
嬉しそうな
笑みを
私は見ることができない
「ほら、ネムさん笑ってる」
ヘルパーさんが教えてくれる
いつまで
お前を背負うことが
できるのだろうか
父は
齢六十八歳
君は体重51キログラム
まだ何とか
踏ん張ることはできる
そう思いつつも
いつかできなくなるその時
きみの笑顔を奪うようで
情けなさと
悔しさが
交差して
涙となって
流れるのだ
いつかのことは
まだいい
ある日突然
その日が来ることは
覚悟しておかなければならない
きみと歩んだ43年間
私は
幸せだった気がしている
なぜなら人生の
具体的な目標を持てたから
きみにつながる
障がいのある人たちも
一緒に通う場所を
作り上げることができたから
地域で
普通の暮しを
実現できたから
きみたちがいなければ
私など
ただのアル中患者だったかも
しれないのだ
きみがいたから
ぼくの今がある
きみがいなければ
今の僕はいない
ありがとう
生まれてきてくれて
本当にありがとう
言えるうちに
言っておこう
きみは
父以上に
社会の中で
存在することで
意識を変える力だった
であいの力であり
多くの人々の接着剤だった
ありがとう
きみの寡黙は
大いなる雄弁だった
多くの人々を勇気づけ
生きる力となったそこには
言葉など意味をなさない
笑みと
寡黙の中での
凛とした
眼差しこそ
きみ自身の主張だったのだ
僕は父親として
感謝しなければならない
ネネム
ありがとう