三田文學 新人賞に応募する予定で、小説の原稿を書いています。
締切 2024年10月31日
枚数 400字詰原稿用紙100枚以内
小説のタイトルは、『ハート・デザイナー』
精神科医の滝川玲と心理カウンセラーのココロ♡愛のふたりは、その日の診療時間を過ぎると、滝川玲の部屋に、給仕に頼んで、二人分の夕食を運ばせた。献立は、松茸蕎麦と太刀魚の塩焼きで、カボスの香りが漂う、秋らしい夕食でした。食事を終えて、香りのよい紅茶を飲み終えると、もうすっかり夜でした。ふたりは直ちに、カーペットの敷いてある階段を昇って二階に行こうとしました。その時、奇妙な故障が起きて、ふたりはそのままそこへ立ち続けることになりました。と云うのは、その時、不意に階段の一番高い所についていた照明が消えて、暗闇の中から奇妙な震え声が聞こえて来たからです。
「アタシは拳銃を持っているんだよ!」と、その声は叫んでいました。
「もしそこから一歩でも近寄ってみな、打っ飛ばすから…」
「アンナさん、何て乱暴なことをなさるのですか」
滝川玲は、老婆に向かって叫びました。
「ああ、先生?」
その声は、ホッとしたように言いました。
「だが、その女は何者?何をしに来た?」
3人は闇を通して長い間見詰め合っていました。
「分かったよ。さあ入りな」
やがてその声は云いました。
「どうも申し訳ない。あんまり私が用心し過ぎて、迷惑を掛けちまった…」
老婆はそう言いながら階段の明かりを再び点けました。
そこで滝川玲とココロ♡愛は初めて、ふたりの前に、奇妙な格好をした老婆が立っているのを見ることができました。老婆の顔つきは、ちょうど彼女の声と同じように、その薮のように入り乱れた神経をそのまま現していました。老婆はとてつもなく肥満していて、しかし以前は今よりもっと太っ手いたらしく、ちょうど猟犬のブルドッグの頬のように、ゆるんだ革袋のような皮が、顔の周囲に垂れ下がっていた。そうして老婆の顔色は一目で分かるほど、病人らしい色つやで、その赤茶けた縮毛は、いかに老婆の感情が激しいかを物語っていました。
老婆は案の定、手に拳銃を持っていたが、滝川玲とココロ♡愛が近寄って行くと、それをガウンコートのポケットの中にしまったのです。
「アンナさん、いったい、ロシア人父子は何者なんですか?いったい、なんのためにあなたにそんな迫害を加えようとするのですか?」
「そうだよ、そうだよ、そのことなんだ」
老婆は、精神病者らしい神経質な様子をして答えました。
「それはもちろん、言えないよ。ともかく、アタシの部屋に入っておくれ」
老婆はふたりを彼女の寝室のなかへ連れて行きました。
その部屋は広くて、居心地よく飾り付けてありました。
「あれをごらん」
彼女は、ベッドの裾のほうに置いてある大きな漆塗り金庫を指さしながら云うのです。
「先生、アタシは決して大金持ちじゃない。この病院に投資した以外には、何も事業なんかしちゃいない。そのくせアタシは、銀行にお金を預けることが出来ないんだよ。私は銀行家を信用していないのだよ。だから、アタシは、持っているものすべてを、全部あの箱の中にしまっているんだよ」
「これだけ打ち明ければ、アタシの部屋に見ず知らずの人間が入って来ると云うことは、アタシにとってどれほど重大な問題であるかと云うことは、分かってもらえるはずだよ」
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