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2024-10-03 | 日記

三田文學 新人賞に応募する予定で、小説の原稿を書いています。

締切 2024年10月31日 

枚数 400字詰原稿用紙100枚以内

小説のタイトルは、『ハート・デザイナー』

 入院の準備が必要かと思われた。長時間ビデオ脳波モニタリング検査の準備を始めようとして、背後を振り返ると、ところがなんということでしょう。間隙を縫うようにしてロシアの老人は診察室からどこかへ出て行ってしまったのです。診察室には誰もいないのですから。精神科医は我が目を疑い、待合室にとんでいってみました。するとどうでしょう。その息子もやはりいないのです。受付の精神科ナースは、勤務歴が浅くて、とにかく気が利かないのです。彼女は、外来患者とのコミュニケーションが不得手で、なるべく受付からやや離れた場所で事務に励んでおりました。受付のナースは、何も物音を聞かなかったというのです。

 こうしてこの日の事件は全くわけの分からないままに済んでしまったのでした。その日の夕暮れに同居する老女が日課の散歩から帰ってきましたが、しかし滝川玲はこの事件については何も話しをしませんでした。と云うのは、なるべく老婆と、煩わしい事件については関わり合わないような方針をとっていたからなのです。

 こんなわけで先週は不思議な事件が起きたままで暮れてしまい、それから日々の診療に追われて、ついそのロシア人親子のことを忘れておりました。ところが今日の夕方のこと、ふと、滝川玲は診察室に入って来る彼ら親子を見て驚愕したのです。しかも曜日も時間まで、先週と同じだったではありませんか。

「どうも前回は、突然にだまって帰ってしまって申し訳ございません」

と、その患者は言い訳をします。

「いいえ、どういたしまして。けれど驚きましたよ。なにがあったのですか」

「いえ、実はその…こういうわけなんですよ」

患者は話し出しました。

「私はいつも癲癇の発作が起きた後は、心に雲がかかったようになって、その前にあったことをすっかり忘れてしまうのです。そういうわけでこの間も発作から覚めてみますと、見たことのない変な部屋におりますでしょう。それで、これは怪しいぞと思いながら、立ち上がって、ふらふらと表の通りに出ていってしまったのです。」

「私はまた…」と、彼の息子は話を継ぐのでした。

「見ていると、親父が待合室の出入り口からふらふらと出て来るでしょう。ですから、これはてっきりもう診察が終わってしまったのだろうと思いましてね」

「会計は、クレジットカードで支払いを終えていたのだろうと思い込んでしまいましてね」

親父の体調が戻ってから、普通に喋れるようになったので、診療中の出来事をいろいろ聞いてみるまで、全く気が付かないでいたのです」

「そうでしたか、いえ、かまいませんよ。確かに会計はクレジットカードでお支払いいただいてます。私どものほうは、ちっとも迷惑しなかったのですから。ただ、どうしたのかしらと思って、ひどくまごつきはしましたけれど。」

では、待合室でお待ちください。前回の続きをやってしまいましょう。もうじき、終わりそうなところまでいっていたのですから。」

 それから30分ばかりの間、精神科医は患者と、彼の病理の徴候についてカウンセリングをしたり、診断をしたりして、すっかり記録をとってから、やがてロシアの老人は彼の息子に手を取られながら帰って行きました。

そこで滝川玲は、ちょうどその日もほどなく散歩から帰って来た老婆に、この患者の話をして聞かせました。するとその話を聞き終わるか終わらないかの時でした。老婆は慌ただしく二階に駆け上がって行きましたが、やがてすぐ駆け下りてくると、いきなり滝川玲の診察室に飛び込んで来たのです。

 老婆の格好は発作に襲われた狂人さながらなのでした。

 

 
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