がん手術、部位・ステージ別5年生存率一覧 「する」「しない」どちらが長生きか
10/18(月) 19:05配信
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がんの治療をどう検討する?(写真はコロナ禍で行われたガン検診の様子/共同通信社)
がんが見つかった時、患者がまず直面するのは「どの治療を選択するか」という問題だ。がんの「3大治療」といえば「手術(外科治療)」「放射線治療」「化学療法(抗がん剤)」が知られているが、なかでも第一選択肢として医師から提案されることが多いのは「手術」である。 【一覧】前立腺は手術なしでも5年生存率100%(ステージ1の場合)、胃がんも(同、内視鏡手術)…、7種の部位の手術の有無&ステージ別「がん5年生存率」
しかし、ひと口にがんと言っても部位やステージによって、治療法ごとの予後は大きく変わる。国立がんセンター中央病院薬物療法部医員を務めたことのある医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が言う。 「がん治療は『手術が可能なら全て手術』という考え方がかつては一般的でしたが、今はそうではない。がんの部位や患者さんそれぞれの状況によって選択は変わります。とにかく何でも手術、というのは間違いと言えます」 医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が言う。 「海外ではがん治療で『いきなり手術』はご法度と考えられています。米国がん合同委員会はがんのタイプやステージに合わせた術前の補助化学療法や放射線治療を検討するよう勧めています。抗がん剤や放射線により手術の効果を高め、生存率を上げられる可能性があるからです」 最初にどの治療を選ぶべきか――。その選択の際に助けとなるのが、「5年生存率」のデータだ。がんと診断された患者が5年後に生存している割合を示すもので、治療成果の目安となる。本誌は詳細な「5年生存率」の最新データを、全国がんセンター協議会(全がん協。全国32のがん専門病院からなる研究グループ)の約24万症例の集計結果から抽出した。これを精査すると、「切ってもいいがん」「切ってはいけないがん」が見えてくる。
4分類した初回治療のうち、手術は旧来の「開腹・開胸手術」と、皮膚を小さく切開して挿入する腹腔鏡(胸腔鏡)を用いた「腹腔鏡下(胸腔鏡下)手術」に分けている。その他、体にメスを入れずに口や肛門などから内視鏡を入れてがんを治療(切除)する「内視鏡治療」、抗がん剤や放射線治療、経過観察を含む「手術なし」がある。 これを見ると、ケースによっては「切らなくても生存率が高い」がん治療の選択肢があることがわかる。 まず、ステージ1~3の「手術なし」の5年生存率がどの年齢層でも95%以上の前立腺がんだ。男性の部位別がん罹患数で最多(9万人超。2018年)だが、ステージ1、2の初回治療の成績は50代以上の全年代で「手術なし」の5年生存率が100%だった。 今や前立腺がんは、見つかっても手術などの治療を行なわない「監視療法」が選択肢のひとつになっている。 「一般的にはがんは発見されたら『すぐに治療』と考えますが、世界的にも前立腺がんは監視療法が推奨されています。これは数か月ごとに検査を行ない、症状の悪化が見られた時点で初めて治療を開始するものです」(室井氏) なぜ「治療しない」が選択肢になるのか。 「前立腺がんの手術の場合、男性器周辺の神経を損傷して排尿障害やED(勃起不全)などの合併症が起きるリスクがあるからです」(上医師) 同様に、胃がんのステージ1では「内視鏡治療」が50代以上の全年代で5年生存率100%となっている。これは旧来の開腹手術を上回る結果だ。 胃がんも“切らない”選択が患者のために良いケースがあると語るのが『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)の著書がある一石英一郎医師(国際医療福祉大学病院教授)だ。 「口から挿入した内視鏡でモニターを確認しながら胃がんを切除する内視鏡治療は痛みも身体への負担も少なく、治療後の回復も早いというメリットがあります。 そのため、最近はがん細胞の浸潤(周囲の組織への広がり)が浅く狭い場合は内視鏡治療で取り除くことがあります。手術のデメリット(創感染などの合併症、回復までの時間など)を考えると、胃がんのステージ1なら日々技術が進歩している内視鏡治療のほうがいいでしょう」
コロナ禍による受診控え・検診控えの影響でステージが進行してから見つかるケースが増えた大腸がんはどうか。 別掲表では、大腸がんステージ1の「手術なし」の生存率が年齢で大きく異なる。年齢が上がるほど、生存率低下が顕著だ。 「初期の大腸がんで抗がん剤を選択することもありますが、若ければ抗がん剤による臓器へのダメージが少なく、高齢者ほどダメージが大きい。それが年代ごとの『手術なし』の生存率の違いに影響したかもしれません」(一石医師) さらに術後のQOL(生活の質)が問題だ。 「大腸(直腸)がんの手術を受けると、一時的または永久的な人工肛門になることがあります。高齢の患者さんほど人工肛門の管理は難しく、病期や年齢で根治が難しければ、身体へのストレスや負担が大きい手術やそれに伴う人工肛門は避け、他の治療を検討してもいいでしょう」(一石医師)