治療後2歳児死亡、歯科医に有罪判決 裁判長「言葉に尽くしがたい」
- 見する山口叶愛ちゃんの父親。娘を助けられなかったことを悔やみ、時折声を詰まらせた=福岡市中央区で2022年3月25日午前11時半ごろ、平塚雄太撮影
2017年に麻酔薬を使った虫歯治療後に容体が急変した女児(当時2歳)に適切な救命措置をせずに死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた福岡県春日市の小児歯科医院(閉鎖)の院長で歯科医、高田貴被告(56)=同県筑紫野市=に対し、福岡地裁は25日、禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑・禁錮2年)の判決を言い渡した。神原浩裁判長は「本来助かったはずの幼い命を失わせた」と述べた。
弁護側は、麻酔薬の使用量や使用法に問題はないため中毒は起こり得ず、被告は父親の訴えを受けて女児の脈を取るなどしたが死亡は予見不可能で防げなかったと無罪を訴えていた。
判決は、女児を司法解剖した医師の証言などから麻酔薬の中毒により死亡したと認定。父親が女児の異変を再三訴えたにもかかわらず「自らの技量を過信してパルスオキシメーターなどの機器も使わず、危険を疑うべき事情を見落とした」と指摘した。異変を察知して救命措置をすれば死亡は回避できたとし、2歳児の死の痛ましさは「言葉に尽くしがたい」と述べた。
山口叶愛ちゃん=遺族提供
一方、使用された麻酔薬の量では中毒は起こらないと考えられている点や、子供が歯科治療後に疲れて眠ってしまうこともあるとして、被告が判断を誤りやすい状況にあったことも考慮すべき事情として挙げた。
判決によると、高田被告は17年7月、虫歯治療のため局所麻酔をした女児の容体が急変したのにもかかわらず、救急搬送などの必要な措置を怠り、麻酔薬リドカインの急性中毒による低酸素脳症で死亡させた。
判決後、死亡した同県春日市の山口叶愛(のあ)ちゃんの父親は記者会見し「正当な判決が出て安心した」と話した。その一方で「助けられずに、叶愛に本当に申し訳ないという気持ちが強くなった」と目を潤ませ、歯科医療の現場に再発防止を求めた。
判決は歯科麻酔の専門家も注目していた。日本歯科大の砂田勝久教授(歯科麻酔学)は「患者に異変が起きた場合はしかるべき医療機関と連携するなど、歯科医師も緊急時の対応を一層身につけておく必要がある」と話した。