「日本沈没」の設定はリアル? 専門家の意見は「メカニズムとしてはあり得る」
小栗旬
近年では「半沢直樹」が大ヒットしたTBS日曜劇場(日曜午後9時~)の最新作「日本沈没―希望のひと―」が順調だ。10月10日の第1話、17日の第2話ともに視聴率15%超え。牽引役となっているのは、やはり豪華キャストだろう。
主人公で未曾有の災害に立ち向かう環境省職員を小栗旬、同期の経産省職員を松山ケンイチが演じ、「関東沈没」を予言する地震学者に香川照之、環境省の汚職を追う週刊誌記者に杏を配するなど、これでもかといわんばかりの顔ぶれを並べる。 原作はご存じ小松左京の『日本沈没』。ただし、本作はオリジナルと異なり、日本沈没を招く原因は地球温暖化にあるという現代的な設定だが、一部から「突飛すぎでは」という声も。そこで、番組を監修した名古屋大学大学院の山岡耕春教授(地震学)に聞けば、 「TBSの番組宣伝HPに掲載しているコメントがすべてです」 とのお答え。で、HPを覗くと、こうあった。 〈そもそも日本が沈没することはあり得ないことなのですが、その上で(TBSから)『日本沈没の原因を温暖化にしたい』と言われたときは非常に困りました。(中略)もっともらしい設定を作るためにはどうしたらいいか、頭が痛かった〉 なるほど、素直な困惑の吐露である。
「学者の足の引っ張り合いはリアル」
だが、こちらの専門家は素直に番組を楽しんでいるようだ。京都大学の鎌田浩毅名誉教授(地球科学)は、1973年公開の映画第1作のみならず、74年放送のドラマ、さらに2006年版の映画と「全部観ている」とおっしゃる。 「本作は他のシリーズと同様、さほど荒唐無稽だとは思いません。学者が足を引っ張り合う話などは、現実にもあって大変リアル」 では、原作と比べてどうなのか。 「小説は、海底プレートのモデルや地震発生のメカニズムについてきちんと踏まえつつ、プレート運動を実際よりも“早める”ことで日本を“沈没させる”フィクションを描いた。今回のドラマも手法は同じ。温暖化で海水面が上昇し、海底プレートに強い圧力がかかって地震が引き起こされると想定しているのですが、メカニズムとしてまったくないわけではありません。ただ、地震に繋がるほどの海水面上昇が、現実には起きないだけです」 もし設定に関心を持ったなら、視聴者はそれを契機に現実の危険にも目を向けてほしいと訴える。 「南海トラフ地震は2035年を軸に前後5年の誤差で確実に発生します。予想被害総額は220兆円で、国の年間税収の3.5倍。予想死者数は32万人で、3.11の犠牲者2万人の16倍です。まさに日本沈没。だから対策と準備が急務なのです」 ドラマのキャッチコピーに「信じられるリーダーはいるか。未来は絶対に消させない」とあるが、現実の世を見ると指導者は心もとない限り。悲劇は小説とドラマの中だけにしたい。
「週刊新潮」2021年10月28日号 掲載
新潮社