今週末見るべき映画「ハンナ・アーレント」
映画『ハンナ・アーレント』予告編
10/26(土)より岩波ホールにて全国順次公開
世界的スキャンダルを巻き起こしたナチス戦犯アイヒマンの裁判レポート
悪とは何か、愛とは何かを問いつづけた哲学者アーレント、感動の実話
今週末見るべき映画「ハンナ・アーレント」
2013年10月24日 13:40 転載
http://ism.excite.co.jp/art/rid_E1382506515123/
昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門で上映され、硬派の映画
ファンを魅了したのが、「ハンナ・アーレント」
(セテラ・インターナショナル配給)だ。ちょうど1年、
このほどの公開となった。
女性哲学者ハンナ・アーレントは、ドイツ系のユダヤ人。第二次世界大戦
のさなか、1941年、ナチスの強制収容所を脱出、その後、アメリカに亡命する。
1960年、ナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンが、逃亡先のアルゼンチンで
逮捕される。アーレントは、アイヒマンの裁判を傍聴、そのレポートを
週刊誌の「ザ・ニューヨーカー」に発表する。5回の連載で、アイヒマンの
裁判についてのアーレントの考えを述べた記事は、第1回から、多くの非難
を浴びる。アーレントは、アイヒマンを極悪非道な犯罪者ではなく、平凡な
人物であると考える。
結果、多くのユダヤ人からの批判が、アーレントに殺到する。
映画は、当時のアイヒマンの裁判の実写フィルムが使われて、臨場感
たっぷり。2012年に作られたドイツ、ルクセンブルグ、フランスの合作
になる。ドイツは、いまだ、映画という媒体で、戦争の意味を問いかけ
続けている。
いったいに、戦争で勝った国が、負けた国を裁くことができるのか?
勝った国が正義で、負けた国が悪なのか? いつも思うことだが、戦争に
正義も悪もないはず。ナチス・ドイツだけが、悪ではないはず。
ドイツ敗戦後のニュールンベルグ裁判しかり、極東軍事裁判(東京裁判)
しかりである。
右や左の思想ではない。なぜ、国と国が戦争するのか、人間と人間が殺し
あうのか。単純な疑問に、アーレントは答えを提出する。諸悪の根源は、
人間が思考を停止し、立場上、命令に従うだけの人間となること。
つまり、人間としての善悪の判断思考の停止が、悪や暴力、大量殺人を
生むことを、ほぼ半世紀前から訴えていた。
アーレントは、マルティン・ハイデガー、エトムント・フッサール、
カール・ヤスパースの教えを受けている。また、1940年に再婚した相手の
ハインリヒ・ブリュッヒャーは、ローザ・ルクセンブルグ率いる
スパルタクス団(後のドイツ共産党)に参加し、独学ながら、アーレントの
政治哲学の形成に多大の影響を及ぼした人物である。
監督・脚本は、ドイツ共産党を創設したローザ・ルクセンブルグの生涯を
描いた「ローザ・ルクセンブルグ」を撮ったマルガレーテ・フォン・トロッタ。
ローザに扮したバルバラ・スコヴァが、本作でアーレントを演じる。
ラスト近く、アーレントは大学で講義する。学生たちへの言葉は、アーレント
の思想が集約され、そのスピーチは圧巻である。
映画が娯楽であることに文句を言うつもりはない。百億円もの興行収入の
ある映画に、ケチをつけるつもりはない。考えさせられる、ひょっとして、
人生を変えるくらいの、考えるヒントとなる映画もあってしかるべきと思う。
そのような映画作家は、世界じゅう、どこにもいるし、そのひとりが、
マルガレーテ・フォン・トロッタだろう。
配給のセテラ・インターナショナルは、創立25周年。公開の岩波ホールは、
創立45周年という。それぞれ、いい仕事を続けていると思う。
おめでとうございます。
【Story】
ナチスの戦犯で、逃亡していたアドルフ・アイヒマンが、逃亡先の
アルゼンチンで捕まる。1960年、そのニュースが世界に発信された。
アイヒマンは、多くのユダヤ人を、強制収容所へ移送した責任者だ。
捕らえたのはイスラエルの諜報部で、イェルサレムで裁判が開かれることになる。
かつて、強制収容所から脱出、アメリカに亡命していたドイツ系ユダヤ人
の女性哲学者ハンナ・アーレント(バルバラ・スコヴァ)は、アイヒマン
の裁判の傍聴を熱望する。そして、裁判のレポート掲載を
「ザ・ニューヨーカー」に持ちかける。「ザ・ニューヨーカー」は、
1925年にハロルド・ロスが創刊した週刊誌で、2代目の編集長
ウィリアム・ショーン(ニコラス・ウッドソン)がアーレントの要望を快諾
する。ショーンはもちろん、アーレントが英語で書いた、代表的な著作
「全体主義の起源」を読んでいる。断るはずがない。
哲学を共に学んだハンス・ヨナス(ウルリッヒ・ノエテン)、親友の女流
作家メアリー・マッカーシー(ジャネット・マクティア)は、アーレントの
行動を支持するが、夫のハインリヒ・ブリュッヒャー(アクセル・ミルベルク)
は、かつてアーレントが強制収容所で受けたトラウマを気遣う。
1961年、イェルサレムに着いたアーレントは、ユダヤ人の国家建設を願う
シオニストのクルト・ブルーメンフェルト(ミヒャエル・デーゲン)を訪ねる。
かつて、アーレントは、クルトたちの運動を支援、信頼できる友人でもあった。
裁判が始まる。アーレントは、アイヒマンの供述に耳を傾ける。「私は命令に
従っただけだ。殺害するか否かはすべて命令次第。事務的に処理し、私は一端を
担ったにすぎない」とアイヒマンは言う。アーレントは、アイヒマンの供述を
聴いて、アイヒマンは、極悪非道な人物ではなく、凡庸な人間ではないかと考え
るようになる。
アメリカに戻ったアーレントの原稿は、捗らない。若き日の師であり、恋愛
関係もあったハイデガーとの過去が甦ってくる。夫のハインリヒが脳の
静脈瘤破裂で倒れる。やがてアイヒマンに死刑の判決が出る。やっと、原稿が
書き上がる。ハンスに見せるが、アイヒマンはヒットラーの命令に従った
だけだという論旨に反論する。「雑誌には載せないでくれ」と。
1963年、原稿が完成、「ザ・ニューヨーカー」誌のショーンは、一字一句、
フレーズの疑問をアーレントにぶつける。なかに、ユダヤ人のリーダーが、
ナチスに協力していたという箇所がある。糺すショーンに、アーレントは
「すべて事実」と突き放し、原稿はそのまま掲載される。アーレントの書い
た記事は、多くのユダヤ人から、非難され、抗議を受ける。
「アイヒマン擁護だ」と。大学の同僚もアーレントを非難する。
イスラエル政府からも圧力がかかる。クルトが危篤と聞いて、イスラエルに
駆けつけたアーレントに、病床のクルトも背を向ける。
アーレントに、たくさんの誹謗中傷の手紙が届く。大学からも退職勧告が出る。
もはや理解者は夫、親友のメアリーくらい。アーレントは、毅然と、学生への
講義を始める。「悪とは、人間とは」と。
「ハンナ・アーレント」 異論貫く生涯 共感
2013年11月12日 夕刊 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013111202000235.html
上映1時間前には約50人がチケット売り場に列をつくった=東京・神保町の岩波ホールで
実在の女性哲学者の生涯を描いた独映画「ハンナ・アーレント」
(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)が異例のヒットを記録している。
上映している岩波ホール(東京・神保町)は連日の行列。
大勢と異なる意見を発表し、脅迫や中傷を受けても声を上げ続けた
アーレントの人生に、共感が集まっている。 (前田朋子)
「見方を貫き、変えない。マスコミが騒ぐとみんなワーッとそっちへ
行っちゃう世の中だけど、彼女のような人は今の日本にも必要では」。
作品を見終わった台東区の男性(69)は、感動した様子で話した。
アーレントは一九六三年、ナチス親衛隊幹部としてユダヤ人数百万人
を強制収容所に送ったアドルフ・アイヒマンを「凡庸な人間」と描写、
小役人のアイヒマンは思考を放棄して命令に従っただけ-との裁判傍聴記
を発表した。
のちに「イェルサレムのアイヒマン」として出版されたこのリポートは
「ナチスの犯罪を軽視した」とユダヤ人社会から怒りを買い、ユダヤ系
ドイツ人のアーレントも友人を失い、大学の職も追われた。
だがアーレントは、主張を曲げることはなかった。
映画ではナチス戦犯裁判の記録映像が使われ、クライマックスに
アーレントの大学での最後の講義と論争が描かれ、硬派な作品に仕上がって
いる。昨年の東京国際映画祭に出されたほか、ドイツで主演女優賞を受賞
するなど高い評価を受けた。
愛知県豊橋市の主婦樋口慶子さん(57)は、「3・11以降、異論を
封じられる雰囲気がある」と話す。大学生の娘の緑さん(27)は
「アーレントは社会的地位も名誉もあって闘えたが、普通の人が人と違う
ことを言うとつぶされてしまうのでは」と心配そうに話す。
上映は十月二十六日に始まり、初日、二日目の一日三回上映はすべて満席。
岩波ホールによると、これは二〇〇三年の韓国映画「おばあちゃんの家」
以来という。「イェルサレムのアイヒマン」の訳書の売れ行きも好調で、
出版するみすず書房(東京)によると、上映に合わせ八百部増刷したが
足りず、千二百部を追加。計二千部の増刷は定価約四千円の価格帯の書籍
としては異例という。
岩波ホールの原田健秀(たけひで)さんは「個としての声が上げづらい
世の中だから、上映することに意義がある。一人一人が政治や文化について
考えるターニングポイントとなるのでは」と期待を寄せている。
上映は十二月十三日まで。
問い合わせは岩波ホール=電03(3262)5252。
<ハンナ・アーレント> 1906~75、ドイツ・ハノーバー出身の
哲学・政治思想学者。ユダヤ系家庭に育つ。学生時代にハイデッガーに師事し
、一時期は不倫関係にあった。戦時中の40年にはフランスで強制収容所に
連行されるが、脱出。その後米に亡命し、プリンストン大学やハーバード大学
で客員教授を務める。アイヒマン裁判の傍聴記は63年、ニューヨーカー誌に
連載された。代表的著作は「全体主義の起原」など。
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( ̄▽ ̄;)どさくさに、紹介されていた韓国映画「おばあちゃんの家」については
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1313210013
。