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「でにをは」別口入力・三属性の変換による日本語入力 - ペンタクラスタキーボードのコンセプト解説

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品詞界一のかしこ・形容詞は入力上の扱いがそんなに甘~ない

2022-06-28 | 形容詞研究

形容詞(イ形容詞)は形態上いろんなバリエーションがありすぎてさすがに別口入力を備えて文法的定型動作に組み込もうとしてもなかなかそうは問屋が卸しません。
先の配列改善案で形容詞連用形活用語尾「く」の別口入力入りという博打に打って出ましたが時すでに遅し、形容詞関係の見通しの据わりの悪さにはほとほと手を焼いています。

形容詞活用はもともと別口入力の追加候補として検討に至ったこともあったのですが形容詞のすべての「い」にいちいち別口入力を必須とするのも煩雑で現実性に乏しく、
別の形容詞:ナ形容詞については生産力も旺盛でカタカナ新語のナ形容詞の生み出される素地というのが大きかった(コアな・損な等書き分け便利)のでその陰に隠れて造語新語の見込みも少ないイ形容詞へのケアは後回しとなっていました。
しかしタッチ液晶サジェストでの規定フレーズ予測変換との相性が良いことがだんだんわかってきたのでとりあえず連体形/終止形への受け皿はタッチ液晶がこなすこととして別の活用形:
連用形「く」を最前線に格上げして別口入力のまな板にのっけていこうとの目論見で様子を見てみようということで思考実験がてらその運用考察をしております。
活用形「い」の導入をあれだけ躊躇していたのにいざタッチ液晶で活躍の見込みが与えられると「なんだいっ、連用形『く』にだって使い道ってものがあるんだいっ!」ってな具合にやせ我慢したくなるものだから創作の世界ってのは不思議なものであります。
「く」がらみの詳しい解説はまたあとであげていきたいとは思いますが
大雑把に言うと連用形は連体形よりも後続の叙述展開の開放度が高い=先が予測しづらい
ために構文解析上の何かヒントになるようにマーキング要員としてぜひご活躍いただきたい、ひいては通常変換のプロセスにおいて「副詞(≒連用修飾語)の検出を優先的に着手する」という方針とも合致するので分解能向上に寄与するのは推して知るべし、なのである。
…という理屈の要請に応えてのことであります。

ただし、連用修飾検出のためだけに貴重なリソースを割くのは"ぜいたく使い"と言われかねないので
マーキング識別子の利点を生かしてさまざま雑多な形容詞のややこしいバリエーションになんとか喰らいつけないか…?との試みでいろいろ機能を模索しています。

まず変換泣かせの形容詞の形態として難題の「イ落ち構文」への対応策があります。
「イ落ち構文」とは
高っ/低っ/重っ/安っ/細っ/薄っ/臭っ/近っ/強っ/弱っ/ちいさっ/すごっ/肩身狭っ
などのように形容詞語幹単独用法ともよばれておりますが、形容詞を活用語尾まで言わずに語幹の部分で言い切る語法とされております。
これらの語は従来のIMEでもすっきりしない変換プロセスでもあり(単漢字変換じゃないと出なかったり)特に短尺のものは他の変換解釈と混線をして悪さをするイレギュラー要因でもあります。
これをたとえば
かる[く]っ ※くは別口入力 
のように入力して、タイポはともかく形容詞という情報は与えられているので変換出力を拡大解釈して
かる[く]っ→軽っ
のように柔軟に変換してやろう、というアイデアであります。

もちろん
軽くったって夜食は夜食
みたいに本則で妥当な変換は第一候補にあげるとしても
区切れ目の軽はおそらくこれでだいたい用は足せるかと思います。これもマーキングの恩恵です。
併せて言うと「駆る」「刈る」「狩る」等の動詞活用の語も除外できるのが自慢です。
楽観的な見通しでありますが、関西弁に特徴的な
あーしんど
ダサなっとる
世の中そんなに甘ないで
良うございます
お暑うございます
などの変化も、場当たり的な登録辞書の収録ではなく文法機能でもって変換を規定することができる日もくるかもしれません。

…まあうまくいけばの話でありますが形容詞はもっともっと思ったよりハードルが高く一筋縄ではいきませんね。
口語でくだけた形の言い方にも
固ぇ・広ぇ・悪ぃ・凄ぇ・古ぃ・強ぇ・かっけぇ・だっせぇ
などは語幹も含めて変化しているのでどうにも始末が悪いです。
これはすぐには解決策が見つかりそうもないのでのちのち俎上に載せていきたいと思っております。

補足的な観点で言えば機能形容詞のようなもの
ぽい、たい、よい、ほしい、みたい、らしい
などの境界領域で、あえて[く]マーキングをほどこして文法構造をはっきりさせる、誤変換誘発要因を軽減させる
などの試みも課題の一つでありますね。
-----------------------------

さてここまでは形容詞の活用という面から変換に関与できるかどうかを探っていきましたが、
生産性の面から言っても無視できない
複合語構成要素=接辞あるいは造語成分
としての形容詞語幹の使われ方にも注視していかねばなりません。

これはペンタクラスタキーボードにおける造語/未知語へのクイックアクセス手段として
新カテゴリ「[Ø]活用と単漢字変換の打開策」 - P突堤2
の過去記事でも提案している
「[の][の]代表変換」「トランス音訓変換」
の手法を援用して形容詞語幹を含む合成語・複合語を形成していくプロセスについて説明せねばなりません。

トランス音訓変換のほうで説明しますと、この提案作法は漢字を多く含む創作語あるいは未知語をタイプするのに難儀していた文字選択を
従来の単漢字変換の枠組みをもっと拡張して音読み/訓読み行き来自在のトランス音訓マッチをほどこすことにより
同音で埋もれやすい漢字の当て込みを訓読みや別の熟語からの代表字というのを設定してすばやくアクセスできるようにするというものであります。
重要な点は単に[よみ-変換単語]だけの対応関係=2項参照ではなく
[全体としてのよみ-訓読み可能性当て込み-音読み熟語からの代表字の可能性当て込み]=3項参照のすりあわせ
で未知語複合語を、ユーザーとの綿密なやり取りによって一からビルドしていこうというインターフェイス上の工夫です。

例として呪術廻戦に出てくる用語
「蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)」
というのを初見でタイプしたいときには

1.まず変換前の読み文字列「しょくらんふじゅつ」をタイプする
2.新設の②キー(登録ワンタッチキー)を押してここまでの文字列に着目・捕捉動作をする(それと同時に単語登録プロセス開始)
3.捕捉した「しょくらんふじゅつ」を読みとしてちょっと二度手間だが「蝕」「爛」「腐」「術」をあてはめていきたい
4.むしばむ[の][の]で変換すると「蝕む」ではなく送り仮名のない「蝕」が代表変換されて一文字目がタイプされる
5.けんらん[の][の]で変換すると「絢爛」のうち「爛」の字だけが代表変換されて二文字目がタイプされる
6.くさる[の][の]で変換すると「腐る」ではなく送り仮名のない「腐」が代表変換されて三文字目がタイプされる
7.じゅつ[の][の]で変換すると「術」がそのまま変換されて四文字目がタイプされる
8.「じゅつ」まで使い切ったので読みの文字列はこれ以上ない、終端部分と認識して同時に
  読み:(しょくらんふじゅつ)、単語:(蝕爛腐術)のデータが紐づけられて単語登録が終了

…以上のようなプロセスで入力していく方法です。
インターネット上あるいはビブリオ界では常に新語・造語・新概念が生み出されており特に漢語複合語のタイピング作法には常々不満を持っていましたが
個々の単漢字へのアクセスの手段を拡充しインデックス回遊性(引き出しが豊富)を高めることでわれわれのこだわりの言語欲求にも応えてくれそうな新提案ではないでしょうか。

もちろんこれに複雑に絡み合うのが三属性変換の接尾辞変換を受け持つハ万の変換キーなのでありますが
今回の形容詞語幹の問題はなにも接辞派生語の語構成ばかりではなく
冒頭の画像にもありますように
驚安(きょうやす)をはじめとしてコク旨や地味ムズ技、胸熱、甘ロリ、期待薄、懐ゲー
などなど完全には接辞的でないところでの漢字使用などもあります。
あとは
ぬるゲーマーやかゆうまなどのようにひらがな語片として保持したい表記上のわびさびを必要とする形容詞変換や、
お薄、お古、おめでた、おねむなどのように接頭辞「お」の付属した体言化した形容詞の変換など
ときに三属性変換、ときにトランス音訓変換などのように適用場面を使い分けながらタイプしていく"プランB"があってもよいと思います。
このへんの細かいチューニングはトランス音訓変換のさらなる修正が求められる懸案であるとともに互いの機能が干渉しあわないように受け持ち領域の境界を明確に定めていくことが必要になってくるでしょう。
漢字断片入力のときには形容詞終止形からだけしか当て込みピースを投げれないということにすると
「若」を出したいときに「わかい」から導くようにさせてしまうと「和解」と「若い」で衝突してしまう例もあるのでここはやはり別口入力[く]のマーキングを添える形のほうが混乱がなく賢明であるかと思います。

以上で今回の論説は終わりです。

もうそろそろ、

みたいな不合理をなくす入力方式が切に求められることを感じずにはいられないぴとてつでありました。

 

 


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ギブミい奴と言わないで!パリピくいっちゃいましょう♪

2021-10-19 | 形容詞研究

画像:狐面堂
https://www.komendou.com/さんよりお借りしました


メタルダンスナンバー"メギツネ"という曲を最近知りまして(by BABYMETAL)

《あ~ ヤマトナデシク 女は変わるの》

という歌詞にノックアウトされてしまいました…。ヤマトナデシクってなかなかフックがあるでしょう?
原形の「やまとなでしこ」を形容詞連用形の副詞的用法でスーパー魔改造を施して述語になだれ込ませるという高等テクニック。
単に形容詞の造語だけなら昨今いくらでも見かけますが、この語幹「ヤマトナデシ」に結ぶ活用語尾「ク」もよくよく考えてみれば改変前の「ヤマトナデシこ」という末尾カ行の音で見事に符合するという芸の細かさもうなるところであります。
作詞:中田カオス/RYU-METAL/FUJI-METALさんのエッジなところを攻めるセンスが光りますね。

こういう逸脱した日本語の使い方に対しては、けしからなくもない意見もおありでしょうが私個人としましては大いに楽しめばよいではないか、とむしろ拍手を贈りたくなります。
映画『メリー・ポピンズ』の劇中で歌われる楽曲のタイトル「supercalifragilisticexpialidocious」も辞書に載るほどの造語でありますし、
諸説あるものの「肩が凝る」という言いまわしを広めたのはかの文豪夏目漱石だったというのは広く知られているところであります。いい造語だってあるんですよ。

そんな偉大な先人の知的営為にささやかながらお目こぼしを頂いて、小生の愚案した造語形容詞を今回うかつにも開陳したい気持ちが沸々と湧いてきました。
それが今回の趣旨…ギブミい奴と言わないでパリピく行っちゃいましょうというわけであります。

形容詞と言いましてもただ闇雲に思いつきで垂れ流すのはさすがに気が引けますので自分の中にちょっとした制限をかけながらのうえで吟味をおこない
クソリプにありがちなとっ散らかした議論に陥らないように自戒しつつこじんまりとつなぎ結んでいきたいかと思います。

現代日本語で形容詞と言った場合、語尾は、-ai 、-ii 、-ui 、-oi であり、-eiで終わるものはないとされています。
ここで語幹iに注目してみると固有語で-iiになるものはせいぜい「大きい」「ひもじい」「親しい」「楽しい」くらいだけでありあとは「--しい」「--ばしい」「--ましい」「--わしい」「--たしい」「--ちい」などのような形容詞性接尾辞の派生から導かれるものが大半であります。
「--いい」にしましても小気味いいであるとかカッコいい、気持ちいいみたいに「良い」の連語形容詞という形を取ってもっぱら顕れるので純粋にオリジナル語幹で--iiになるものはほぼないと言ってもよいでしょう。
つまり形容詞造語全般の造語といたしましても見えない制限というものがあって、音韻的な暗黙の了解のもとに前述した--iiや--eiのケースは起こりにくく、穏便な造語となると語尾-ai-ui-oiになるのがどうやら順当なようであります。

今回はそれを逆手にとってレアケースの方の--iiや--eiのケースの語幹をもつ風変わりな造語を皆さんにご紹介したいと思います。
日本語の乱れはげふんげふん、ここは一息飲み込んでいただきまして読む気が進まないかもしれませんが宴会の余興だと思ってどうかお気楽な気持ちでご覧になって下さい。以下に列挙します。

【--iiや--eiで終わるレアケースの造語形容詞いろいろ】

夏休みボケい、抜け駆けい、浅知恵い、後知恵い、生け贄い、オーボエい、さまたげい、紅蓮華い、切れ端い、赤だしい、危ない橋い、イラチい、
筑前煮い、ティンパニい、不気味の谷い、SN比い、黄金比い、特売日い、生あくびい、ゴロツキい、アンチい、えっちい、
拒否い、ニキビい、ワナビい、パリピい、アニキい、吹雪い、エノキい、マタギい、ケロッピい、ハグい、パリティい、
スリーデぃい、カモミールティい、ボリューミい、クリーミい、リメンバーミい、フォローミーい、トラストミーい、ギブミい


…もしあなたのお眼鏡に適うステキな形容詞が見つかりましたら、SNSやブログで気軽に発信してみてください。
…それを見た方が気分を害されるかどうかまではフォローできませんけれどね。笑って許せる方限定です!

 


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困った人だ/トイレに行けないコマーシャル:文法的視点

2021-08-21 | 形容詞研究

ときに「正規の日本語として正しいのか?」と評されることのある特異語「困った(御方です)」は連体詞らしいです。
この用法は
・「難問を抱えてて困った人」みたいに「--ている人」という言い換えも互換できるタイプでもありませんし、
・「保育園探しで困った人」みたいに過去を表す用法でもない、同じ連体修飾の中でも少し毛色の違ったタイプであります。(特殊な連体修飾)
連体詞と呼ぶにはそれなりの理由がありそうで、
似たような構造の語として「おめでたい人」というのがありまして、これは先程の前2者のような状態性質のものに典型的に当てはめることはできませんが
典型用法の「困った」に比べて「困れず・困るとき・困れば」のような活用展開も可能な含みのあるものにはなり得ない特殊な「困った」であるということ(つまり活用が限られているということ)が認められます。
それに加えて名詞を修飾限定していくうちに本義からはなれて特殊化された語彙に変化していくという歴史的・経時的な移ろいが見られるということであります。
「おめでたい」もめでたいという額面通りの意味からずれが生じて皮肉ったニュアンスに特殊化されていますし「困った」にしてももっぱらそういう扱いの人というように性質づけに変容が起こっています。
このように専業化していくということによって活用ラインナップ空間から切り離されていく再構成のプロセスを加味すると連体詞ととらえる事にもうなづけるものがあります。

ここで三枝令子(2011)「感情を表す動詞「困る」が示すテンス・アスペクト」の論文中に重要な記述がありましたので引用してみます。

(引用)--

動作動詞の場合には、「作る時」「作る人」「作った時」「作った人」と、ル形、タ形とも接続が可能だが、
「困る」では、「困る人」「困る時」とは言えず、その感情が発動された「困った」によってはじめて「とき」「人」を修飾できる。
また、「困った人」には二通りの意味がありえる。

(18) 就職に困った人が相談に来た。
(19) 彼は、人の気持ちが読めない困った人だ。

すなわち「人」が「困った」の主格である場合と、対象の場合である。
後者の「外の関係」の場合には、「困った」が形容詞的役割を担うので、「困った会社」「困ったお客」のように独立して使うことが可能である。

--(引用終わり)

…ここで重要な視点が出てきますね。「困る」という動詞のもつ個別的な語彙はおいておくとしまして、被修飾名詞に到達するまでの焦点のとるべき道・ルートがまったく異なるということ甚だしいという新鮮な驚きであります。これは分裂といっていいくらいの事態であります。
「内の関係」「外の関係」の説明は後述するとしまして、まず以下の例をご覧ください。

・トイレに行けないコマーシャル
・クレジット情報入力しそうな人でした

これらの文には2通りの解釈があります。
ひとつは荒唐無稽で、コマーシャル君という概念人格が尿意を催し、行きたくても行けずに煩悶するという解釈です。もちろんこんなのはありませんね。
腑に落ちる解釈の方はコマーシャルを見ている我々視聴者がお茶の間においてトイレに行くのを忘れてしまうくらいの見どころあるコマーシャルだというのがどうやら順当であります。
どうやら第三者視点が持ち込まれていることに差異があるのでしょうか?もう少し解きほぐしてみます。
「クレジット情報入力しそうな人でした」こちらは眼前の人が風貌や話しぶりなどからの推測で「なにかクレジット情報を扱う」まがいのことを日常的にやっていそうな感じだと言ったところでしょうか。
しかしピンポイントでこんなニッチな連想を想起する、人への形容というのはあまり自然ではありません。
おそらく、何らかのオペレーターや営業担当者が入力業務をしておりそこでのお客様振り返りの話題のときに職場ででてきたフレーズと解釈するほうが現実的です。

第三者視点というのをキーワードにしてみたものの…うーん、いろいろWebで関連をあたってみましたが上手い言い回しがない…例えていうなら第三者というより「場」とのリンケージに着眼点がありそうな予感がします。
昨日食べた大福、あした来そうな人みたいに素直な連体修飾では被修飾名詞をより詳しく規定してやろう、属性を付加してやろうとの力学がはたらいております。
属性は内在しておりここで付加された新たな属性情報はその個物の内部情報として獲得します。
翻って「トイレに行けないコマーシャル」はどうでしょうか?
なんでしたら「食えない視聴者」「筆の進まない週末」「いらない子」なんてのでもいいです。
これらは素材をあれこれデコレーションするのとは違う別の観点、話し手の発話時の感情が示されている…話者観点コンテクストの介入というのが重要なキーになっているものだと推測します。


とまあ自分流の解釈に拘泥し続けるのも見苦しいので本来の筋に戻ってこの論文中にでてきた「内の関係」「外の関係」についてさらっとおさらいしておこうかと思います。
寺村秀夫によれば、日本語の連体修飾節構造は、修飾語と被修飾節との間に格関係が成立する「内の関係」と、
そのような関係が成立しない「外の関係」とに分類される…としています。

次のAは「内の関係」の例であり、Bは「外の関係」の例である。

A.  秋刀魚を焼く男    (男-焼く:主述関係)
B.  秋刀魚を焼く匂い   (匂い-焼く:「主語-述語」関係も「連用修飾語-述語」関係も見いだせない)

これらを主語を頭にもってきて格関係のある別の文に書き換えができるか試みてみます。
A.  男が秋刀魚を焼く
B.  (その)匂い □ 秋刀魚を焼く

となりAはガ格で転換できますがBには適切な格助詞をあてはめることができず非文となってしまいます。
つまりBの文ではどんな格関係も成り立たないものであります。この違いを区別し名称が与えられています。それが

Aは「内の関係」の連体修飾成分
Bは「外の関係」の連体修飾成分

ということであります。
ちなみに、被修飾名詞=修飾される側の名詞のことを「底」(てい)と呼びます。
一概には言えませんが、「内の関係」のときと「外の関係」で使われるときの底の語彙的振る舞い・性質にはある種の傾向が認められており、
「内の関係」のときの底の名詞は具体性の高い名詞が(写真、カレー、プレゼント)、
「外の関係」のときの底の名詞は抽象性の高い名詞がくる(噂、匂い、傾向、記憶、残り)

…ですが文脈によっては想定どおりにいかない例もままありますので参考程度にとどめておいてくださいね。


さて「外の関係」というものにつきましては以前過去記事で触れた「文末名詞」や「人魚構文」と着眼点に通底するものがあると勝手に受け取っているのでありますが、
たとえば被修飾名詞へのかかり方などにしましても描写で規定していくのではなくて先行する修飾成分を内容として編集的に組み入れる、またその結果としての底への結節という文法的・統語的編入に落ち着くという体をなすところが英語の関係代名詞みたいでトリッキーで趣き深いと感じる由でもあります。

ただちょっと疑問なところなのではありますが
「気のきいた言い回し」などにみられるフレーズを内/外の関係判定テストにかけてみたとき、杓子定規に当てはめて格関係で文転換できるかやってみますと
⇔言い回しが気のきいている(*)
となりちょっと違和感があるのでこれは格関係成り立たずBの「外の関係」構文である、と判定してしまうのはいささか早計であるかと思っています。
これをちょっといじれば
⇔言い回しが気がきいている(○)
となりイディオム中の細かな助詞を微調整してやれば格関係成り立つのでAの「内の構文」と判定できなくもない事態ではないのか(もちろん本来はBの外の構文の胸算用ではありますが)
…という不都合が出てきてしまいます。
用言部分が1チャンクの動詞ではなく助詞の種々付随するイディオムフレーズのときには連体修飾のとらえかたも精緻化が求められているのではないか?という疑問です。

まあそこまで追求するのは他のタスクもありますし余裕があったら深掘りしてみたい課題とさせていただきます。やはり日本語文法は沼ですね~アセアセ
なお今回の記事は迷いましたが連体修飾は形容詞カテゴリーの規定語とも深く関連するという観点からカテゴリ:「形容詞研究」に分類しましたのであしからずご了承ください。
以上、「予約の取れない大工」じゃなかった「うだつのあがらないブロガー」ぴとてつがお送りした言語トピックでした。

 


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新カテゴリ発進・形容詞研究

2021-07-01 | 形容詞研究

従来より【形容詞の新語】はなかなか生産されにくいとされてきましたが、その傾向もだんだん拘束力がなくなってきているような兆しを感じます。
「エモい」が強すぎるせいか目立ちにくいのですがネット打ち言葉文化の萌芽で「びみょい」とか「ガジェガジェしい」といったような自由な新語を目にする機会は確実に増えてきており、
日本語に限らず外国語文化の中にあっても「instagrammable(インスタ映えする)」であるとか「rageux(ネット上で過激な意見を主張する人)」などにみられるように話題を映す鏡として【形容詞の新語】の需要は高まっているようであります。

そこでまずはこのコピペから

798名無しさん@英語勉強中 2018/09/20(木) 02:04:29.56
イ形容詞は丁寧形が不自然になりやすい。
白いです
白かったです
話し言葉だと違和感がないが、書き言葉では避ける人も少なくない。

なのでイ形容詞の新語は丁寧さを必要としない言葉が多い。
うざい
やばい

(引用:5ch English板より)

…なかなか鋭い分析ですね。
日本語のフォーマルな新語としての形容詞語がみられないのも、ここらあたりに遠因があるのかもしれません。


さてペンタクラスタキーボードの操作体系において形容詞には別口入力の提供を検討したことはあるのですが結局採用には至っておりません。
やはり造語新語生産性が低いとみて喫緊の必要性をあまり感じなかったからであります。
確かに一度は別口入力で終止形/連体形活用語尾「い」について新規採用の可否について考察したこともあるのですが
全ての形容詞にいちいち「い」をマーキングするのも煩わしいですし、「ぽい」「たい」「いい」「ほしい」など頻出フレーズへの対応を考えると頭を抱えてしまいます。
あとはわざわざ別口入力を用意してまですることなく、用言フレーズなのであるから三属性変換のロ万で末尾いのつく未知語をたとえば「イスカンダルい」のように形容詞解釈させる道も用意してやればいいのではないかという小細工で処理すればいいとの認識もありました。
このあたりの考察は過去記事

未定義③キーにあてる別口入力キー候補その4…[い] - P突堤2
形容詞も思い通りに変換したい - P突堤2

にて触れておりますので興味のある方はどうぞご覧ください。

こうして一度はスルーされた別口入力「い」だったのですが、
しかしこれを別口入力「く」(連用形)とした場合、もしかしたら再考の余地があるのではないか…との考えがよぎってきました。
ここでは詳しくは述べませんが、連用形なら頻度は少なさそうですし、補助形容詞との連結も「い」のときよりは抵抗感がやわらいでいるかと思っております。

そこで思い切ってカテゴリを独立させて、別口入力「く」(連用形のひとつ)の実現性について今後の記事で深掘りしていこうと思いますのでそこらあたりについていろいろ書いていこうと思います。
新カテゴリ名は

形容詞研究

であります。
これに伴って[形容詞も思い通りに変換したい - P突堤2]だけはカテゴリ移動させて
[変換三属性+通常変換のシステム考察] から [形容詞研究] のほうへ移しておきます。なのでこの記事は同カテゴリの中の2番目の記事となります。悪しからずご了承ください。

研究という大仰なカテゴリ名ではありますがいままで形容詞を軽視していて別口入力という可能性を見落としていたという悔悟の念もありますし、昨今の新語の趨勢への期待感も込めて少し背伸びをして真摯なタイトルにしてみました。
書けそうなことは別口入力以外にも形容詞新語、規定成分のチャンクのとらえかた、形容詞転成の副詞、旨っ・辛っ・安っのようなイ落ち形態、それに第三形容詞などなどいろいろありますので
新カテゴリを銘打つに足るコンテンツが書ければ良いかと思います。至らぬところもあるかとは思いますがどうかご期待ください。

 


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形容詞も思い通りに変換したい

2016-09-01 | 形容詞研究

ペンタクラスタキーボードの別口入力にはナ形容詞(形容動詞)の活用語尾の各種変化である「な」や「だ」の入力専用のキーが用意されていますが、イ形容詞(形容詞)には特別しつらえてあるわけではなくその差はどこからくるのかという疑問も湧いてくるかもしれません。
考えて見れば不思議なことかもしれませんが両品詞の傾向の違いに着目すればおのずと答えは出てきます。
まず目につくのは形容動詞の数のほうが際立って多いということで、そのバリエーションも漢語系のものからカタカナ系形容動詞までさまざまあり語幹の独立性の高さから柔軟に使用場面に対応でき表現の幅の広いものであるということです。
それに比べて形容詞は新語・造語の類も少なく、「+だ」で簡単に語彙数を増やせる形容動詞とは違って表現に限りがあるので文法上有意義なはたらきはあるものの比較して埋もれてしまっているのだといえます。

それに形容動詞の特性として「都会な」「クラシックな」のように活用語尾がつくときは文字通り形容動詞であるものの、「都会」「クラシック」単体でみると単純に名詞として(形容動詞の語幹としてではなく)とらえられる場合もあり語性にゆれが見られることが多々あります。
効果のほどはわかりませんがIMEにとってこれらがはっきりとナ形容詞(形容動詞)のマーキングされたものだとわかっていれば少しは文の構造解析に役立つ場面もあるかもしれません。

ここではイ形容詞(形容詞)について述べたいと思うので形容動詞のことはこれくらいにしたいと思いますが、形容詞全般の変換に関していえば別口入力を使わなくても別の便利な手立てがあるのでそれを活用してみましょう。
それは簡単なことなんですが3つの変換キー、三属性変換を使って形容詞を変換する方法でこれをうまく機能させれば形容詞の変換がらみのトラブルはだいぶ減ると思います。
変換意図の要因はいろいろ考えられるのでざっと挙げていきたいと思います。

まず考えられるのは形容詞の終止形・連体形の語尾「い」には「医、位、委、衣、意」等同音で混同しやすい接尾語があるのでそれを防ぐために属性ロ(用言全般)のキーを押して形容詞に変換するよう促すことです。
次に対象になると思われるのは使う人は限られてくるかもしれませんが、「ダサい・ナウい・ムズい・ケバい・キモい・メタい・チャラい・ペラい」などの口語的な形容詞を使用する際に、[カタカナ部]-[い]のように字種を変えたいときにあえて属性ロを指定してニュアンスを出すのに使われる場合です。
これらは学習するなり品詞登録するなりすれば使用できるかもしれませんが初期段階から使う分には多少便利なのかもしれません。造語法則のわからない未知語を無理やりにでも形容詞にさせたいとき(例:イスカンダルい)には需要はあるかどうかわかりませんが使えると思います。
さらに未知語について突っ込んで考えると形容詞の活用(かろ・かっ・く・い・い・けれ)の各活用変化時にも対応できると良いと思います。

なお通常変換ではそういった形容詞のでてくるユニークな場合の変換には最初は対応できないかもしれませんが、変換ロの学習が効いた後では通常時の変換にも学習の結果が反映されるように(むやみに変換過程に干渉されない限りにおいては)なるとユーザーにとっても使いやすいものになると思います。
このとき大事なのはわざわざ品詞登録をしなくても済み、変換ロで文字列変換をしたことで自然とIMEに理解させることができるのが理想です。
もちろん欲を言えばどんな場面でその語が使用されたかという用例的なことや、品詞は形容詞である、ということも理解・処理していければ申し分ありません。
変換の三属性と単語の品詞とでは別ものでカテゴリー体系もデータとしてのふるまいも異なるものですが、前後の文脈や付加された属性情報などのヒントから適切に品詞を割り出してIME学習につなげていくことができれば品詞登録の省力化ができますし日本語変換においても新たな可能性が広がっていくと思います。


※3/14追記
この記事中での「形容詞の変換は属性ロで変換すればよい」…との見解はのちの検証で一部撤回し軌道修正することになりました。
詳しくは
未定義③キーにあてる別口入力キー候補その4…[い]
の記事をご覧ください。


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